研究実績の概要 |
海洋産セコステロイドであるアプリシアセコステロールAは、特異な三環性の構造と、これに由来すると予想される生物活性に興味が持たれている。先に他の研究グループによって全合成が達成されているものの、本化合物の詳細な生物活性試験および構造活性相関研究への展開はなされていない。 そこで本研究において、詳細な生物活性試験および構造活性相関研究への展開を志向した、収束的な合成戦略を用いた合成研究を行った。 これまでの研究において、アプリシアセコステロールAの三環性の構造の合成方法を確立している。また、極めて求電子性の高い三環性のエンジオン化合物が得られており、求核付加反応によるD環部分の導入が可能であることが示唆されている。このことから、本年度は収束的な合成戦略に基づき、三環性の構造への環の連結条件の検討と、残るステロイドのD環部分に相当する構造の合成方法の確立を主として行ってきた。環の連結条件に関しては、種々の有機金属種を用いた、エンジオンへの求核付加反応条件の検討において、有機銅試薬を用いた条件での環の連結が達成しうることを見出した。またD環部分の合成に関しては、Hajos-Parrishケトン類縁体より、酸化開裂およびCrabtree触媒による面選択的な還元を含む17段階で、有機銅種へ容易に変換可能な、ヨウ化ビニルを有するD環セグメントの合成に成功した。 本研究で得られた三環性骨格に関する知見、およびD環部分の合成法の知見は、本化合物の合成のみならず、他の9,11セコステロイドの合成にも応用しうる知見となると考えている。
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