本研究で対象とするジャロシンスキー守谷相互作用(DMI)は次世代磁気記録素として期待されるキラルなスピン構造を安定化させる相互作用である。これまでの研究では主に界面を構成する物質の探索が行われてきたが、物質探索には限界がある。そこで系全体で空間反転対称性を破る多層膜構造を人工的に作成した点がこの研究において重要な点である。 まず、DCマグネトロンスパッタを用いて空間反転対称性の破れたフェリ磁性体Si/SiO2 sub./Ta(5)/Pt(3)/[Co(0.5)/Gd (1)/Pt (1)]N/Ta(3) (unit : nm)多層膜を作製した。[Co(0.5)/Gd (1)/Pt (1)]を1ユニットとし積層回数を1 ≦ N ≦ 50まで変化させた。X線構造解析では、[Co/Gd/Pt]ユニットと全体の膜厚に対応したX線反射率プロファイルが得られた。また、SQUIDによる磁気特性評価の結果、すべての薄膜は磁化補償温度TMを持ち、垂直磁気異方性を示した。磁気特性はNの増加に伴い変化した。Coの磁化、Gd の磁化を分離して考え、さらに、[Co/Gd/Pt]ユニット中のCoと下地層Ptと接するCoの磁化が異なると仮定して計算したところ、測定結果と良い一致を示した。これらの結果から、積層回数を制御する事によって磁気特性を系統的に制御可能であることが示された。 次に、作製した多層膜のうち1 ≦ N ≦ 5の試料を用いて、面内磁場印加下での磁壁移動現象の変化からDMIおよびスピン軌道トルク(SOT)の変化を系統的に調査した。その結果、Nが大きいほどSOT効率の最大値、DMIによる有効磁場ともに単調に減少した。人工的に作製した空間反転対称性の破れた多層膜構造のバンド構造を利用するためには電子やスピンの拡散長を考慮し、界面の粗さ・HM/TMの膜厚比などを変化させることが必要であると考えられる。
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