近年、日本においては糖尿病に伴う排尿障害が問題視されている。糖尿性排尿障害の患者数は、糖尿病患者数の8割に及んでいる。この糖尿病性排尿障害は、糖尿病性神経障害による末梢神経の伝達障害によることがこれまでに知られている。しかし、どのような末梢神経回路が障害されるのかは不明な点が多く、障害される回路の究明と新規治療薬・治療法の開発は急務であった。昨年度は自身で確立してきた、排尿時における下部尿路系からの脊髄後角ニューロンの神経活動記録法を用いて、脊髄後角において、排尿時に発火するニューロンと、膀胱の内圧の上昇とともに発火するニューロンを見いだし、膀胱内圧の変化との関連を丁寧に解析することで、前者を尿道からの感覚情報を受容するニューロン、後者を膀胱からの感覚情報を受容するニューロンであることを明らかにした。 本年度は、排尿障害を引き起こす糖尿病モデルラットにおいてこれらの脊髄ニューロンを記録した。その結果、糖尿病モデルラットにおいては、膀胱からの感覚情報を受容するニューロンの数の割合には変化がみられないものの尿道からの感覚情報を受容するニューロンの数の割合が減少していることを明らかにした。加えて、糖尿病に伴う排尿障害に効果のある薬剤TAC-302を投薬すると、減少していた尿道からの感覚情報を受容するニューロンの数の割合が回復した。本研究は、糖尿病モデルラットにおいて尿道からの感覚情報を受容する脊髄内ニューロンが特異的に減少していることを初めて明らかにしたもので、糖尿病性排尿障害の病態解明、治療法の開発につながる基本的で重要な所見と考えられる。
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