研究実績の概要 |
令和2年度の研究では,秋元琢磨氏(東京理科大学准教授),山戸康祐氏(京都大学博士課程),矢野孝次氏(京都大学准教授)との共同研究により,間欠力学系のエイジング効果に関する極限定理を得た.この結果は査読付き論文として学術雑誌「Physical Review E」に掲載された.より詳しく述べると,2つの中立不動点を持つ間欠力学系について,時刻nから時刻n+mまでに片側の中立不動点近傍に滞在していた時間の総数を考える.このときの比率n/m = rをエイジング比と呼ぶ.エイジング比rを固定したままn,mを十分大きくしていくと,上述の滞在時間の時間平均がとある確率分布に収束することを示した.
また令和1年度に引き続きJonathan Aaronson氏(テルアビブ大学名誉教授)と共同でピン留め条件下での間欠力学系の極限定理を研究した.この研究は学術雑誌に投稿しており現在査読中である.詳しく述べると,間欠力学系に対し「時刻nにおいて不安定状態が生じている」という条件を課す.このとき時刻nまでの不安定挙動の生起回数S(n)について,適当な正規化のもとでMittag-Leffler分布に関連した分布に分布収束することを示した.この結果はベッセル拡散過程の研究の類推から得られたものである.
さらに伊藤悠氏(京都産業大学准教授),矢野孝次氏との共同研究により写像のランダム作用に関する情報分解問題を考察した.この研究は学術雑誌に投稿済みで現在査読中である.より詳しく述べると有限集合上の写像を都度ランダムに選択して反復作用させる.このときのランダム反復作用により動く多粒子の情報系について考察した.そしてこの情報系が「ランダム反復作用の部分的情報系」,「多粒子の無限過去の情報系」そして「一様性から生じる情報系」の三つからなることを示した.この結果を示すために半群理論におけるリース分解を利用した.
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