研究課題/領域番号 |
19J11825
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
須川 忠輝 大阪大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 地方自治 / 民主化 / 中央地方関係 / 地方分権 / 中東欧 / 制度設計 / 出先機関 |
研究実績の概要 |
本研究は,民主化を経験して間もない国家で,中央政府や広域自治体がより狭域の地方政府との政府間関係をどのように設計するのかを,政党政治の影響に着目して解明するものである。本年度は,主な研究事例であるチェコ共和国とスロヴァキアを対象として,民主化から2000年頃にかけての政府間関係の制度設計について,以下の研究を行った。 1.民主化と中央-地方政府間の政府間関係 民主化直後に実施された地方自治制度改革によって,中東欧諸国の多くでは市町村レヴェルでの地方自治が導入された。本研究では,政治代表の選出方法等を含む初期の制度設計を踏まえた上で,実際に中央政府と地方政府の間の政府間関係がどのように制度設計されるのかについて研究を行った。財政や地方公務員数等の指標を踏まえると,民主化後のチェコでは政府全体の中で地方政府が担う役割や活動量が比較的大きかったのに対し,スロヴァキアでは抑制されていた。研究では,両国で差異が生じた要因について,中央地方政府間の党派性の一致度合いから説明することを試みた。 2.重層化された地方政府と中央政府間の政府間関係 中東欧各国では,民主化直後から導入の議論が続いていた広域レヴェルの地方政府を2000年前後に相次いで新設した。本研究では,既存の地方政府とは異なるレヴェルに地方政府を導入する広域自治体の設置に際して,いかなる問題が政治的な議題となり,他の政府との関係がどのように設計されるのかについて分析を行った。今年度は特にスロヴァキアの事例を中心に分析を進め,まず同国での国と地方の関係に関する各政党間の立場の変遷について整理した。その上で,地方分権の観点から広域自治体が有する政治的含意を考察し,政府間の税財政制度や中央政府の地方出先機関と地方政府の関係について詳細な事例分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,以下の通り研究活動に従事し,一定の成果を得た。 (1).国内外での資料収集を通じて,研究遂行に不可欠な文献やデータの収集を行った。まず国立国会図書館,北海道大学附属図書館,名古屋大学附属図書館等の国内図書館にて,ヨーロッパや中東欧地域の政治行政に関する文献や統計資料を収集した他,研究の一般化を図るべく,国内外の中央地方関係や政党政治研究に関する研究成果を整理した。その上で,年度後半には主な研究対象であるチェコ共和国およびスロヴァキアにて,資料収集を目的とした現地調査を実施した。具体的には,チェコ国立図書館(プラハ),スロヴァキア国立図書館(マルティン)のほか,主要都市の図書館,公文書館等で資料調査に従事した。現地調査では,政府刊行資料や首長の党派性に関するデータの他,政治行政や財政,地域開発等の関連する先行研究を入手できた。 (2).年度内に各所で研究報告を行い,隣接分野を含む多数の研究者と意見交換を実施した。具体的には,日本行政学会2019年度研究大会や行政共同研究会にて研究報告を行った他,複数の研究会にて現地情勢報告を実施している。また,2019年度中の研究成果について,2020年度の日本行政学会および日本比較政治学会の研究大会にて口頭報告することが決定している。 このほか,海外研究者との共同研究の決定や,今後予定している他分野の研究者らとの共同研究の準備を進める等,積極的な研究活動を実施した。 以上より,研究がおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
採用最終年度となる2020年度は,残る研究課題である地方政府を重層化する地方制度改革を実施した後の,広域自治体と基礎自治体間の政府間関係の制度設計について研究を進めるとともに,これまでの研究で得た成果を取りまとめることに注力する。なお新型コロナウイルスの感染拡大から海外での現地調査の実施が危ぶまれる状況である。ただし,既に2019年度中の現地調査にて法律文書や現地での先行研究を可能な限り収集しており,日本国内からアクセスできる議会データベース等も活用しながら,研究を進めることが可能な環境にある。加えて,一般化の観点から西欧諸国や他の新興民主主義国における事例との比較にも取り組みたいと考えている。 また2020年度中に学会報告を2件行うことが決定しており,報告後に修正の上,論文投稿を目指す。さらに博士論文の執筆も進め,同年中の提出を予定している。
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