本研究は,どうすれば英語の実践的な活用を重視する学習者を育成できるかという問いに対して,特に実生活での英語使用を重視する学習観である活用志向に着目して,活用志向の社会的な形成過程を解明することを目的とするものである。 2020年度の取り組みとして,第1に,前年度から行っている活用志向を規定する文化的要因に関する縦断調査について,3時点目および4時点目の調査を実施した。この収集データについて現在統計的分析を行っている。前年度と同様に,英語圏の国に留学をしている英語学習者の活用志向は日本の英語学習者より高いことが予測される。 第2に,社会的ネットワークの枠組みから,学習者の信念の形成過程に関する検討を行った。中学生および高校生1434名を対象とした3時点にわたる縦断調査を実施した。現在,基礎的な分析を終えたところであり,今後,確率的アクター指向モデル(Stochastic Actor-Oriented Model: SAOM)に基づく社会的ネットワーク分析を行う予定である。時点を経るにしたがって友人間の信念の得点が類似していくことが予測される。 最後に,本研究課題の理論的意義の再定位のために,教科学習に対する学習観の形成過程および外国語学習における社会的ネットワークに関する文献展望を行った。その結果,教科の学習観の形成過程については,当該教科における学習活動のあり方をはじめとした社会的要因が重要であることが確認された。また,外国語学習における社会的ネットワークに関する文献展望を通して,外国語教育研究では,外国語習得における社会的要因の重要性が指摘されながらも,教室環境における友人の役割について本研究で行う分析枠組みであるSAOMを適用した知見はほとんどみられないことが確認された。
|