研究課題/領域番号 |
19J11853
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安部 伸哉 九州大学, 経済学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 近世 / 経済史 / 取引制度 / 米市場 / 蔵米の証券化 / 米切手 / 米札 / 米会所 |
研究実績の概要 |
本研究における令和元年度の実績は,主に以下の2点が挙げられる。 第1に,萩藩を事例とした領内米市場の分析である。その研究成果は,5月に青山学院大学で開催された第88回社会経済史学会全国大会の自由論題報告において,「19世紀前半の地方米市場における取引システムの解明―萩藩を事例として―」という題目で報告を行なった。報告時の質疑やアフターセッションにおいて,多く有益なコメントが寄せられた。その後,同会の新NTW(同年10月)というワークショップに参加した。そのうえで,論文「19世紀前半の地方米市場における取引システムの動向―萩藩の御切手と相場所を事例としてー」を執筆し,『社会経済史学』に投稿した。これにより,①萩藩では蔵米の証券化を通じた取引費用の削減が達成されていたこと,②萩藩庁は取引所(相場所)の廃止・再開を繰り返すことで,米価の自由相場か公定相場かを選択していたことが明らかになった。 第2に,庄内藩における米札(米切手)の流通の分析である。まず,酒田市光丘文庫・鶴岡市郷土資料館・山形大学図書館に赴き,複数回の史料調査を行なった。その資料調査の成果を踏まえて,12月に開催された近世史フォーラムにおいて「19世紀前半における地方米市場の展開―庄内藩の米札流通を中心として―」という題目で研究報告を行なった。これにより,①様々な名目で米札が発行されていたこと,②札納(米札による年貢納入)の存在,③米札担保金融の存在などが明らかになった。 以上のように,領内における米切手利用について,萩藩・庄内藩ともに共通点が見られ,全国的な蔵米の証券化の一端が解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究状況は,おおむね順調に進展していると言える。研究計画では,社会経済史学会の全国大会で研究報告を行い,その内容を論文にまとめて『社会経済史学』に投稿するとしていた。実際,おおむね計画通り研究報告を行い,『社会経済史学』への論文投稿を行うことができた。現在は,投稿した論文の査読結果待ちである。庄内藩の米札の研究については,現地での史料調査を行い,研究報告を行うことができた。現在は,近世史フォーラムでの研究報告やコメントをもとに,論文作成を行なっている。また,庄内藩の米札について,当初想定していた以上の史料発見があった。特に,庄内地方において酒田の本間家に次ぐ大地主であった加茂の秋野家の経営史料のなかに,米札取引の記録を見つけることができた。この史料は,今後の論文を執筆する際の重要な史料となることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず,現在査読待ちである論文審査結果を受けて,リライトを行い,早急に『社会経済史学』への掲載を目指す。さらに,2本目の論文として,萩藩における偽造米切手の流通問題を取り上げる。3本目の論文として,庄内藩の米札を取り上げる。4本目として,尾張藩における米会所の取引制度を再検討する。また,米市場に関する史料収集を行う。特に,新型コロナウイルスの影響から見合わせていた尾張藩に関する史料を所蔵する徳川林政史研究所(東京)や愛知県公文書館での調査を行う。このように,論文執筆と史料調査・収集を同時並行して業績の蓄積を進める。そして,本研究の課題である近世地方米市場の取引制度の比較検討を行い,博士論文にまとめ,博士の学位取得を目指す。
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