研究課題/領域番号 |
19J11887
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村上 雄紀 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 燃焼化学反応 / 燃料改質 / 低温酸化反応 / 窒素酸化物 / 詳細化学反応機構 |
研究実績の概要 |
2019年度は,燃焼反応を正確に模擬できる化学反応モデルの構築を目指して,主要な燃料成分および添加物を対象として,燃焼現象と化学反応の相互関係を調査するとともに,モデリングに使用する化学反応データの取得範囲の拡大に努めた。東北大学では,改質ガスの反応性に対するエチレン添加の影響を調査した.過去に調査を行ったメタンは,含有割合の増加に伴い反応性が低下していくのに対し,エチレンは含有割合が小さいときに反応性を大きく低下させるが,ある程度の割合を超えると反応性があまり変化しないという傾向が見られた。これは含有割合の増加に伴い,燃料酸化に対して促進効果を持つ反応の寄与が,抑制効果を持つ反応の寄与を上回ることに起因すると考えられる。また,国際共同研究として米・プリンストン大学にて,(1)低温条件における燃焼化学反応および火炎挙動に関する研究および(2)窒素酸化物がディーゼル燃料の燃焼特性に及ぼす影響に関する研究を行った。(1)では,冷炎と呼ばれる低温条件に特有の火炎に着目した。実験(層流)および数値計算の結果,特定の燃料濃度条件を境界として,火炎が火炎伝播により安定化する領域と自己着火により安定化する領域があることが示された。また層流での燃焼特性から,乱流における燃焼特性を推算できることも分かった。(2)では,低中温条件特有の火炎を対象として,燃料中のNOx濃度が,火炎の存在条件に及ぼす影響を調査した。その結果,NOx存在下では,低温での火炎の存在領域が狭まるのに対し,中温での火炎の存在領域が拡がるという傾向が,実験および数値計算の両方で確認された。これらの傾向は,低温条件および中温条件における燃料派生種とNOとの干渉反応に起因することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は,エンジン気筒内での燃焼改質反応の生成物のうち,低級炭化水素成分が改質ガスの反応性に及ぼす影響のみを検討する予定であったが,研究実施過程で窒素酸化物が炭化水素の燃焼特性に大きく影響することが分かったため,化学反応モデルで対象とする化学種として窒素化合物も含めることとなった。米・プリンストン大学にて行った国際共同研究では,ディーゼル燃料を対象として,特に低中温域での燃焼現象および化学反応に焦点を置いた研究を実施した。その結果,低温条件で発現する火炎の存在条件とそのメカニズムを明らかにできたとともに,低温から高温にかけて変化する火炎の形態に対して,窒素酸化物が及ぼす影響を体系的に解明することができた。これらの研究成果は,燃焼化学反応だけでなく,火炎の挙動(ダイナミクス)に関する新たな知見も含んでおり,エンジン内での燃焼現象を理解するうえで,非常に有意義な成果であるといえる。今後,化学反応と火炎ダイナミクスの両面から研究課題を進めることで,化学反応モデルの構築を,エンジンの開発により具体的に繋げていくことができると感じている。また,いずれの研究成果も,燃焼工学分野で最も権威ある国際学会(国際燃焼シンポジウム)の発表論文として採択されただけでなく,国際学術誌への掲載も決定した(2020年時点)。以上の観点から,2019年度は当初の計画以上に進展があったと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果において,窒素酸化物が炭化水素燃料の燃焼特性に強く影響を及ぼすことが分かった。これに着想を得て,対象化学種を窒素化合物(NOx,アンモニア)へと拡大し,窒素化合物が炭化水素の反応プロセスにおいてどのように影響を及ぼすかについて,体系的な調査を行う。また,炭化水素/窒素化合物の混合燃料を対象として,混合気の基礎燃焼特性を正確に模擬できる化学反応モデルの構築を試みる。構築したモデルは,エンジン計算に応用し,燃焼生成物を調査することで,エンジンの性能評価や理想的な運転条件の探索へと繋げていく。
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