研究実績の概要 |
2020年度は,炭化水素燃料および窒素化合物(NOx, アンモニア)の混合気に対応する化学反応モデルの構築を行った.モデル検証の過程で行った実験から,(1)高濃度の窒素酸化物が炭化水素燃料の酸化を抑制する効果を持つこと,(2)一般的に反応性が低いとされるアンモニアが,炭化水素との相互干渉によって窒素酸化物を生成し,炭化水素の反応性を向上させる働きを持つことが分かった.これらの結果は,従来のNOxやアンモニアの持つ効果についての理解とは反する傾向であり,対象とした混合気の条件範囲を拡大したことによって明らかになった.またいずれの結果も2019年度に実施した,「低温条件における火炎挙動に関する研究」や「炭化水素燃料の可燃限界に対する窒素酸化物の影響に関する研究」に密接に関係しており,前年度の研究成果を生かして,個々の化学種が持つ影響をより体系的に明らかにすることができた.より広範な条件に対応できるよう,構築した化学反応モデルを改良していく上でも,これらの情報は極めて有用であると考えている.なお,得られた研究成果については,燃焼工学分野で最も権威ある国際学術論文誌(Combustion and Flame, IF: 4.570)への投稿手続きを進めている.さらに,構築した化学反応モデルを用いて,簡易的なエンジン燃焼計算を実施した.炭化水素/窒素化合物(アンモニア)の混合気組成や,燃料濃度,初期温度などをパラメータとして変化させた際に,燃焼生成物がどのように変化するかを調べた.得られた計算結果から,混合燃料から水素を効率よく取り出し,利用できる条件範囲の存在が示唆された.この結果は,エンジンにおける水素やアンモニア燃料の応用範囲を拡大するものであり,極めて有意義であると考えている.
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