研究実績の概要 |
本研究では臓器透明化を用いた腎臓の3次元病態解析を確立し、それを応用することで「急性腎障害後の腎交感神経障害 (Kidney Int, 2019)」および「糖尿病腎症における腎エネルギー代謝変化 (Kidney Int, 2020)」など様々な腎臓病の病態を明らかにしてきた。 この3次元イメージングをマウス脾臓にも応用し、交感神経の3次元構造を可視化したところ、腎臓だけでなく脾臓の内部にも交感神経が密に分布していたことから、交感神経と免疫系は脾臓で密接にクロストークしていると考えられた。そこで、2020年度は交感神経-免疫系-腎臓病の関係について検討した。まずin vitroの系で交感神経刺激によるマクロファージの炎症応答抑制にT-cell immunoglobulin and mucin domain 3 (Tim3) が重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、in vivoにおいてもサルブタモール (β2アドレナリン受容体刺激薬) の投与は敗血症モデルにおける全身炎症や虚血再灌流による腎局所の炎症を軽減することが分かった。一方、脾臓摘出したマウスやマクロファージ特異的β2アドレナリン受容体ノックアウトマウスではサルブタモールの前投与による腎虚血再灌流障害からの保護作用が観察されなかった。さらにマウス脾臓からマクロファージを採取してサルブタモール刺激を与えた後に別のマウスに移入したところ、腎虚血再灌流障害に対する保護作用が観察され、腎組織のシングルセルRNA-seqではTim3陽性マクロファージの集積を伴っていた。これらの結果から、腎虚血再灌流障害の病態においてマクロファージの交感神経シグナルが重要な役割を果たすことを証明することができ、論文として報告した (Journal of the American Society of Nephrology, 2021)。
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