研究課題/領域番号 |
19J12007
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
古賀 泰敬 立教大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 一般相対論 / 光子球面・光子面 / 降着流の音速点 / 曲がった幾何学 / 流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、曲がった時空における輻射流体の降着流について成り立つ、「音速点/光子球面対応」という理論的な現象のメカニズムを解明することである。本年度の目的は先行研究では調べられていない時空において「音速点/光子球面対応」が成り立つかを解明することである。 前年度までの先行研究では、非球対称時空においては「音速点/光子球面対応」が「音速点/光子面対応」となることがわかっていた。つまり、より一般には音速点は光子面という光子球面を数学的に一般化したものの上に存在する。本年度は一般の定常時空において「音速点/光子面対応」が成り立つかを調べた。 「音速点/光子面対応」を一般の時空上で調べるにあたって、光子面上の安定性を定義した。これは光子面近傍での光の運動を定性的に表す概念であり、ブラックホールシャドウなど、「音速点/光子面対応」以外のさまざまな宇宙物理の問題に重要なものである。さらにこの安定条件を幾何学的な方程式として導出した。時空の幾何学はそこに存在する物質の性質で決まるものであり、これが光の運動の性質と関連することは新たな発見である。 光子面の安定性の定義などに基づき、「音速点/光子面対応」を解析するための降着問題を定式化した。この定式化は様々な降着問題に適用可能な汎用性の高いものである。これは名古屋大の槌谷氏、柳氏、立教大の原田氏との共同研究にて行なった。結果として「音速点/光子面対応」では空間的な対称性の高さが重要な役割を担うことがわかった。これは、時空中の降着流の振る舞いから近傍の対称性の高さなどの情報が得られる可能性を示唆しており、今後の観測的・理論的研究において応用が期待できる重要な結果となった。 また「音速点/光子面対応」が適用可能な例として、光子面をもつワームホール時空を広く調べた。この研究では、一般相対論の解としてこのようなワームホール時空を得る手法を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、本年度は「音速点/光子面対応」を定常軸対称時空において調べる予定であったが、名古屋大と立教大の研究者らとの共同研究により、一般の定常時空において調べることができた。後者は数学的にはより困難な解析が必要であるため、これは当初の計画よりとても大きな進展である。 また光子面の安定性の定義の際には、それが時空にある物質の性質(エネルギー条件)によって決まり得るという結果は全く予期していなかったが、とても有用なものである。 またワームホールの研究は、本研究を進める過程で他の研究者と議論した際に発見したことがきっかけとなったもので、本研究の当初の内容の有用性をより広める結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、「音速点/光子面対応」において時空の対称性の高さが重要な役割を果たすことが明らかになった。次年度は、流体自体の性質が果たす役割について明らかにする。具体的には完全流体ではなく非完全流体についてこの問題を解析することでそれを調べる。非完全流体の場合は非等方性に応じて音速点は複数定義されることになるが、そのうち流体の運動方向に対応するものに特に注目する。流体中の音波に対する捕捉面に最も関係する音速点であると考えられるためである。 また、輻射流体ではない完全流体の音速点が光子面とどれほどずれるかも解析し、その結果を非完全輻射流体の音速点の解析と比較する。これによって流体の微視的構造が「音速点/光子面対応」において果たす役割を明らかにする。 適宜、各地の学会・研究会・セミナー講演などに参加し、情報共有や議論を行なっていく。
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