研究課題/領域番号 |
19J12037
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
峰 正博 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ゼータ関数 / L関数 / 値分布 / 確率密度関数 / M関数 / ArtinのL関数 / 3次体 / 類数分布 |
研究実績の概要 |
今年度における主要な成果は、3次体に関連して生じる Artin のL関数について、3次体を変化させたときの値分布を詳細に調べることによって得られた一連の結果である。とくに、その値分布に対応する確率密度関数であるM関数の構成に成功し、幾つかの性質を解明した。このM関数は既に得られていた別のM関数の高次化とも解釈されるが、本研究ではL関数の零点密度評価や Hadamard の三円定理を用いた上界の評価など、新たな手法を多数取り入れた。これによって議論の大部分を、従来の方法とは違って一般化された Riemann 予想などの仮定を必要とせずに進めることができた。こうして得られた結果は Artin のL関数の平均値公式として統一的に理解される。特に累乗平均値などについては誤差項の評価も込めた結果も得ることができた。さらに、これらの結果に類数公式を適用することによって、3次体の類数の分布に関する結果も得られた。特に2次形式の類数和に関する Siegel 型公式の、ある意味での3次類似を証明するに至った。 今年度の後半からはM関数を用いる新たな研究テーマとして、楕円カスプ形式のL関数、および Riemann のゼータ関数の対数の反復積分で与えられる関数について、それらの値分布に関する研究を開始した。前者の課題においては、まずは対応するM関数を構成することで来年度以降の研究に備えた。後者の課題は名古屋大学の遠藤健太氏と井上翔太氏との共同研究によるものである。従来のM関数の研究と違い、臨界線上を含めた値分布の結果を得ることを目的として、確率論の方面から準備的な考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼータ関数やL関数の値分布から生じるM関数について、整数論の方面からの理解が深まってきた。実際、今年度研究した3次体に付随する Artin のL関数の場合には3次体のある種の数え上げの公式が、また楕円カスプ形式のL関数の場合には vertical Sato-Tate 予想と呼ばれる Hecke 作用素の固有値の一様分布性が、それぞれ対応するM関数の構成に本質的な役割を果たすことが明らかになった。このような、M関数の研究における整数論的な要点を明確に出来たことは、本研究が順調に進展していることの証である。また、得られたM関数を確率論的により深く考察することで、ゼータ関数やL関数の extreme values の分布の研究への応用が見込まれる。これについては関連研究の整理などによって準備が進んでいるが、M関数を用いた具体的な計算などは来年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の準備に基づいて、楕円カスプ形式のL関数、また Riemann のゼータ関数の対数の反復積分で与えられる関数について、それらの値分布に関する研究を推進する。具体的には、前述したようにそれらの extreme values の分布に対して、M関数の観点から考察する。楕円カスプ形式のL関数に対応する研究では、vertical Sato-Tate 予想へのより深い理解が求められるであろう。Hilbert カスプ形式や Siegel カスプ形式などでの拡張版も含めて、保型形式論の専門家との意見交換を行いたい。Riemann のゼータ関数の対数の反復積分で与えられる関数に対しては、引き続き名古屋大学の遠藤健太氏と井上翔太氏と共同で研究を実施する。M関数の技法を用いて臨界線上での値の評価などの課題に取り組みたい。
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