研究課題/領域番号 |
19J12059
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
宇田川 伸吾 琉球大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | サンゴ礁魚類 / 潮汐性産卵リズム / 静水圧 |
研究実績の概要 |
本研究では、満潮付近で毎日産卵するミツボシキュウセンを実験材料に用い、潮汐性産卵リズムを制御する脳内の水圧情報伝達経路を解明するために水圧情報を刺激として認識する「入力系」と受容した情報を内因性のリズムへと変換する「情報処理」がどこで、どのように行われているのかを明らかにすることを目的としている。本年度では下記のことを行った。 【課題1】水圧刺激を受容する器官を特定するために抗生剤処理による側線器官の機能阻害を行った後、水圧刺激を6時間付加した魚の脳からモノアミン量を測定した。その結果、脳内モノアミン量の変化は確認されなかったことから、側線は水圧刺激の受容に関わる器官の一つであるということが考えられた。 【課題2】水圧関連遺伝子の発現解析を行うためにトランスクリプトーム解析で明らかとなっている水圧関連遺伝子の発現をリアルタイム定量PCRを用いて測定し、局在をin situハイブリダイゼーション特定した。その結果、MAP2K1及びPI3Kは水圧刺激によって発現変動し、間脳域に強く発現していることが明らかとなった。また、潮汐性産卵リズムを持つが他種のベラ科魚類であるホンベラにおいても同様の水圧実験を行い、これら2つの遺伝子発現を定量した。その結果、ミツボシキュウセンと同様の発現変動が確認された。このことから、MAP2K1及びPI3Kはベラ科魚類における潮汐性産卵リズムに関係している可能性が考えられた。 【課題3-1】水圧情報伝達に関わる脳内神経の解明するための足がかりとして、脳内神経を三次元的に可視化する技術の確立を目指した。そのために、マイクロX線CTスキャンから取得された脳のCTイメージの脳領域を組織切片から把握することで、本種における脳構造の三次元イメージを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では水圧刺激を受容する器官の特定【課題1】、水圧関連遺伝子の発現解析【課題2】、水圧情報伝達の脳内神経の解明【課題3】に取り組んでいくことで、潮汐性産卵リズムに関わる水圧情報伝達の脳内伝達経路を明らかにしていく。【課題1】の水圧刺激を受容する器官の特定は本年度で実験が完了した。【課題2】の水圧関連遺伝子の発現解析においては、網羅的遺伝子解析は既に完了している。今後は、得られたいくつかの水圧関連候補遺伝子の再現性をリアルタイム定量PCRを用いて確認し、再現性が確認された遺伝子についてはin situハイブリダイゼーションによる局在の特定及び潮汐に関係した生殖行動を持つ魚類(ホンベラ、フグ類、異体類)においても発現変動を確認していく予定である。【課題3】の水圧情報伝達の脳内神経の解明に関しては、脳組織の透明化及びCTイメージングによる脳構造の三次元イメージの作成を完了した。今後はこれらの技術を組み合わせる事により脳内神経を三次元的に可視化する技術を確立する。その後、水圧付加した脳を透明化処理し、神経マーカーの一つであるc-FOS抗体を用いて免疫組織染色する。その後、共焦点レーザー顕微鏡で脳におけるc-FOSタンパク質の局在を明らかにし、脳構造の三次元イメージと統合することで神経局在を可視化する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
脳組織の透明化及びCTイメージングによる脳構造の三次元イメージの統合処理が困難と予想された場合は免疫組織化学手法によりc-FOSタンパク質の局在を特定することで水圧情報伝達に関わる脳内神経を明らかにしていく。
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