研究課題/領域番号 |
19J12097
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下平 勇太 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 実験経済学 / 社会的選好 / 利他性選好 / 独裁者ゲーム / 顕示選好理論 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
2019年度は,個人の社会的選好を測定する実験手法の検討を行なった.本研究の目的は繰り返しゲームにおいて協力行動が生起する条件を学習と利他性選好に注目して解明することであり,社会的選好測定手法の検討は個人の利他性を測定するための第一段階である.本研究では,Andreoni & Miller (2002, Ecta) およびFisman et al. (2007, AER) によって提案された独裁者ゲーム実験法を利用し,意思決定結果をCES効用関数に当てはめ,推定したパラメータを社会的選好の尺度として用いる(AM法).AM法による選好測定実験の実施に向けて数値シミュレーションを行なったところ,AM法には,以下の3つの問題点があることが明らかになった. (1) 外れ値のような意思決定が少数でも存在する場合に,顕示選好理論に基づいた意思決定の合理化可能性指数が過小に算出されてしまう点.従来は指数がある閾値よりも小さい場合に選好が効用関数で表現できないとして分析対象から除外してしまっていたが,このような判別方法が妥当ではないことが分かった. (2) CES効用関数への当てはめのアルゴリズムが,選好を表現するパラメータの異質性を過小評価してしまう点.典型的な選好パラメータを持つ個人を仮定して意思決定データを生成し,パラメータ推定を行ったところ,推定精度は著しく悪く,個人の識別が困難であることが分かった.また,ノイズのモデリングや当てはめのアルゴリズムの改良によりパラメータ推定精度が向上することも分かった. (3) 呈示する独裁者ゲーム課題がパラメータ推定の観点における効率性を考慮していない点.似た課題が重複して呈示されると情報量が少なくなりパラメータの推定精度が下がることが分かった. 以上の問題点と解決策に関する一連の結果を論文にまとめ,現在,学術雑誌への投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度においては,研究の第一段階である社会的選好測定実験として,実験参加者プールの登録者に対しオンライン上でのアンケート形式による実験を実施する計画であった.この選好測定実験の実施に先立って,実験手法について先行研究を詳細に検討したところ,Andreoni & Miller (2002, Ecta) およびFisman et al. (2007, AER) による手法(AM法)には欠陥があることが判明し,現在は改良に取り組んでいる. この手法の検討に時間がかかっているため,2019年度中において社会的選好を測定する実験は実施できず,研究進捗状況はやや遅れていると判断した. しかしながら,AM法はすでに多くの研究に引用されている手法であり,その欠陥を指摘することは重要な貢献であると考える.また,選好の測定は経済学理論の検証を行う実証研究において,理論の仮定が成立していることを保証する重要な基盤であり,選好測定手法開発への貢献は意義深いものであると考える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は実験参加者プール登録者に対してオンライン上でのアンケート形式による社会的選好測定実験を実施する.さらに,この実験の参加者を対象に実験室実験への募集を行い,繰り返しゲーム実験を実施する.2つの実験を行うことにより,社会的選好と繰り返しゲームにおける行動の関係についての分析が可能となる. 社会的選好測定実験により個人の社会的選好は,自他の間の重みづけを表す利他性パラメータと,効率性と平等性のトレードオフを表すパラメータによって表現される.従来の繰り返しゲーム実験研究ではもっぱら社会的選好の利他性パラメータにのみ注目してきたが,本研究では効率性と平等性のトレードオフのパラメータと繰り返しゲームにおける行動の関係について明らかにする.また,繰り返しゲームにおける行動の変化を学習モデルに当てはめた際の学習率パラメータと社会的選好との関係についても検討を行う. 実験の実施は,明治学院大学犬飼佳吾氏および高崎経済大学塩澤康平氏と共同で行う.
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