細胞が高分子材料表面に接着するとき、細胞表面のレセプターが高分子の表面物性や水和状態、タンパク質の吸着状態を認識するため、高分子の表面物性を制御することによってがん細胞を含む各種細胞の接着状態を制御できると期待される。これを達成するにあたり、一次構造が厳密に制御された高分子を用いて検討を行うことは、極めて有効な手段であると考えられる。 本研究課題では、高分子材料と細胞や血漿タンパク質との相互作用における水和状態の重要性に着目して、生体適合性高分子にがん細胞が選択的に接着するメカニズムを解明することを目的としている。具体的には、生体適合性を示すポリアクリレート類において観測される特徴的な水和状態(中間水)を制御するために、その側鎖導入間隔を制御したモデル高分子を合成する。得られた高分子の一次構造と水和状態の関係を明らかにするとともに、高分子の表面物性やタンパク質の吸着状態、細胞挙動を解析し、水和状態と水和により生じる相互作用の関係を明らかにする。 2020年度は、水界面で強力な水素結合受容性官能基としてふるまうことが期待される三級アミノ基を主鎖ポリエチレン骨格に対して5、7、8炭素おきに導入したモデル高分子を合成した。この合成では、触媒重合の観点から新たな合成戦略や触媒設計へと繋がる大変有意義な知見が得られた。さらに、得られた高分子について水和状態、血小板粘着、吸着した血漿タンパク質の変性度を評価した。その結果、得られた高分子は多量の中間水を発現し、前年度までに合成・評価したモデル高分子よりも著しくタンパク質の変性と血小板の粘着を抑制した。また、三級アミノ基はpHに応答してプロトン化し正電荷を帯びるが、血漿成分の吸着によって血小板の粘着や溶血性が著しく抑制されていることも明らかとなった。 上記の成果については国内外の学会で4件の報告を行い、学術誌へ2件の論文投稿も行った。
|