研究課題/領域番号 |
19J12119
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船屋 智史 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | マウス初期胚 / 遺伝子発現プログラム / ヒストン変異体 |
研究実績の概要 |
本研究では受精後、特に1、2細胞期における遺伝子発現プログラムの制御機構の解明を最終目標とし、この時期のクロマチン構造変化へのヒストン変異体の関与、とりわけクロマチン構造に深く関与するリンカーヒストンH1変異体とコアヒストンH3変異体に着目し、解析を行なった。 リンカーヒストンH1変異体について、申請者のこれまでの研究成果によりリンカーヒストンH1fooは1細胞期胚の緩いクロマチン構造に関与すること、またH1foo以外の因子もこの緩いクロマチン構造に関与しているが明らかになっている。そこで1細胞期の緩いクロマチン構造の形成に関して、H1fooに加え新たにH1aにも着目し解析を行った。H1fooの時と同様にsiRNAを卵へ顕微注入することにより1細胞期におけるH1aのノックダウン(KD)を試みた。しかしながら1細胞期におけるH1aのタンパク質レベルでの消失は確認できなかった。そこでH1aのノックアウト(KO)マウスの作成を行うことにし、現在H1aのホモKOマウスの獲得に成功した。 コアヒストンH3変異体であるH3.1/3.2は締まったクロマチン構造に関与し、1から2細胞期にかけてその核局在量が増加することが明らかになっている。そこで1、2細胞期のクロマチン構造変化へのH3.1/3.2の関与について解析を行った。FRAP法を用いたクロマチン構造解析によりH3.1/3.2をKDした胚では1から2細胞期にかけて緩いクロマチン構造が維持されていた。さらに1細胞期で発現上昇し、2細胞期においてその発現が抑制される遺伝子群について、H3.1/3.2をKDした2細胞期胚ではそれら遺伝子群の発現抑制が十分に起きていなかった。以上のことより、H3,1/3.2が2細胞期においてその核局在量が上昇することによりクロマチン構造が締まり、1細胞期胚で発現する遺伝子群の一部が抑制されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に述べたようにリンカーヒストン変異体に関してはH1aのタンパク質が安定なためsiRNAによるノックダウンでは不十分であったため、 ノックアウトマウスを作成した。ノックアウトマウス作成には時間がかかるため、当初の予定よりはやや遅れて進行している。 またH3変異体に関しては、H3.1/3.2が1、2細胞期のクロマチン構造に関与しており、さらには遺伝子発現パターンの変化を一部制御していることが明らかにした。これらの結果は、受精後の遺伝子発現プログラムの調節機構の一部について、分子レベルで明らかにしたものといえる。そのため、H3変異体に関しては当初の計画以上に進行している。 以上2つのヒストン変異体に関しての全体の進捗としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
リンカーヒストンH1変異体に関して、これまでにH1aのノックアウト(KO)マウスが作成されたため、今後はまずH1aKOマウスを用いて1細胞期におけるH1aのタンパク質の消失を確認する。H1aの消失が確認された際にはH1aをKOした1細胞期胚においてFRAP法を用いてクロマチン構造解析を行う。H1aをKOした1細胞期胚においてクロマチン構造が締まっていた場合には、H1aのKO1細胞期胚の遺伝子発現および、その後の胚発生について解析を行う。またH1aのKOが1細胞期胚のクロマチン構造に与える影響がわずかであった場合には、H1fooと合わせて両方のタンパク質を欠損させた1細胞期胚においてFRAP法を用いてクロマチン構造解析を行う。H1aとH1foo両方を欠損した1細胞期胚において緩いクロマチン構造が大幅に失われていた場合には、H1a単独のKOのときと同様、これら両方のタンパク質を欠損した1細胞期胚の遺伝子発現解析およびその後の初期発生について解析し、1細胞期胚の緩いクロマチン構造の生物学的意義について明らかにする。 コアヒストンH3変異体H3.1/3.2については、H3.1/3.2をノックダウン(KD)した2細胞期胚における遺伝子発現解析は一部の遺伝子群のみであったため、今後はH3.1/3.2のKDが1から2細胞期の遺伝子発現パターンの変化について与える影響をRNA-seqを用いて網羅的に解析を行う。
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