研究課題/領域番号 |
19J12139
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野寺 麻理子 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アストロサイト / てんかん / 細胞外カリウム / カリウムイオン除去機構 / ギャップ結合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳内カリウムイオン(K+)バランス制御機構を明らかにし、てんかん脳病態時において細胞外K+除去機能(K+-clearance)が障害されるメカニズムを解明することである。本研究成果は、てんかん発作の重篤化を防ぐ、新たな治療戦略につながることが期待される。グリア細胞の一種であるアストロサイトがK+-clearance機能を発揮することで、健常な脳内環境は保持される。神経細胞に活動電位が発生すると細胞外にK+が増加するが、このK+はアストロサイトに取り込まれ、アストロサイト同士のギャップ結合を介したネットワークを拡散することで薄められて除去される。高濃度の細胞外K+が停留すると、神経細胞の過興奮が引き起こされるため、てんかん病態が進行する要因のひとつにK+-clearance機能の破綻があると考えられる。本研究では、アストロサイト同士を繋ぐギャップ結合が閉塞することが、K+-clearance障害につながると考えた。当該年度においては、ギャップ結合閉塞のメカニズムの解明に取り組んだ。まずは、急性マウス脳スライス標本を用いて、細胞内外K+濃度変化を計測する技術をドイツとの国際共同研究を通して導入した。10分程度のてんかん様発作を経験したスライス標本では、(1)一過性に上昇した細胞外K+濃度が元に戻るまでの時間が長くなることが明らかになった。また、てんかん様発作によって(2)アストロサイト内pHがアルカリ化すること、また、(3)アルカリ化に伴ってアストロサイト間ギャップ結合が閉塞することが示された。すなわち、神経細胞の過剰活動に応じ、アストロサイト機能に可塑的な変化が起き、K+-clearance機能が障害されることが示された。今後は、生きたマウスの脳内に薬剤を投与し、アストロサイトpH変化を阻害することでてんかんの重篤化を防ぐ新たな治療開発を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、神経細胞の過剰活動が生じると、グリア細胞(アストロサイト)内がpH変化し、アストロサイト機能に可塑的な変化が生じ、K+-clearance機能が障害されるという一連のメカニズムを明らかにした。また、細胞外K+濃度計測にあたって、ドイツの研究室との共同研究を行っている。以上のように、てんかん重篤化へ向かう一連のメカニズムをおさえる鍵となる実験、および、国際共同研究を実施したことから、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、上記メカニズムへの薬理的介入を試みる。すなわち、てんかん様活動にともなって引き起こされるギャップ結合の閉塞、ならびに、細胞外K+除去機能の障害が生じにくい状態が作れるかどうかを試行する。ギャップ結合閉塞へと至る経路への薬理学的介入により、神経細胞の過活動が抑制される効果が現れることが期待される。また、生きているマウスにおいても、脳実質内薬理学的操作により、アストロサイトpH変化を抑制することを試みる。アストロサイトpH変化を抑制することが、ギャップ結合が閉塞しにくくし、てんかん発作が重篤化するのを抑制できるかを検討する。実験には、マウス海馬の神経細胞を電気的に刺激し、てんかん様発作が繰り返し引き起こされる急速キンドリングモデルを用いる。通常は、繰り返し刺激によって、てんかん発作は重篤化していくが、上記薬理学的介入により、てんかん発作の重篤化が防げるかどうかを調べる。従来の抗てんかん薬では、てんかん発作自体を止めることを目指していたのに対し、アストロサイト機能に介入することで、てんかん重篤化を防ぐことを目指し、「キンドリング抑制剤」という新たなてんかん治療戦略の可能性を検討する。
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