研究課題
全人口の約1%がてんかんを患い、患者の約30%は、既存の薬が効かない難治性てんかん患者である。脳の神経細胞が過剰に興奮するとてんかん発作が引き起こされる。また、発作を繰り返すと、症状はより重篤化していくことが知られている。本研究では、てんかん発作にともない、脳内アストロサイトに可塑的な変化が生じ、カリウムイオンバランス制御機構が障害されることを解明した。そこで、アストロサイトの可塑性を阻止することで発作の重篤化を防ぐという新たな治療戦略を提案した。脳内グリア細胞の一種であるアストロサイトには、細胞外カリウムイオン除去し(K+ clearance)、健常な脳内環境を保持する機能がある。神経細胞が活発に活動すると、細胞外にK+が放出されるため、アストロサイトのK+ clearance機構が働き、アストロサイトに取り込まれたK+は、アストロサイト同士をつなぐギャップ結合を伝わって拡散することで除去される。なお、過剰なK+が細胞外に停留すると神経過興奮が引き起こされる。したがって、K+ clearance機構が破綻すると、てんかん発作が重篤化すると考えられた。本研究では、マウス脳の細胞内外のイオン動態を、電気生理学やイメージング法を用いて計測する実験を実施した。その結果、てんかん様発作後、(1)アストロサイトに発現するNa+/HCO3-共輸送体(NBC)が活性化されて、細胞内がアルカリ化すること、(2)アルカリ化にともってアストロサイト間ギャップ結合が障害され、このことが、(3)K+ clearanceの障害につながることが明らかになった。また、NBCの活性化を薬理学的に阻害することで、(4)発作の重篤化を阻止できることが示された。将来的には、薬物動態の確認、標的分子特異性を高めるなど詳細な検討を行うことにより、アストロサイトを標的とした新規てんかん治療戦略の実現が期待される。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Neuroscience
巻: 41 ページ: 2106-2118
10.1523/JNEUROSCI.2365-20.2020
http://www.ims.med.tohoku.ac.jp/matsui/index.html
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research/results/detail---id-49826.html