研究実績の概要 |
本研究は分子への水素結合導入による高成形性かつ血液適合性を有するポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)の創製を目的とした.そして,水素結合の導入のために,一般的に反応時に水素結合基を形成することで知られるジイソシアネートに着目し,PMEAの固形化を試みた.本年度は(a)ジイソシアネートとの反応に必要なヒドロキシ基(OH)末端を有するPMEA (OH基末端PMEA)の合成,および(b)OH基末端PMEAへのジイソシアネート導入による水素結合基の導入の2つの手順により水素結合を有する固形PMEAの合成手順を確立した. (a)についてはリビングラジカル重合の一種である可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)法を利用して,モノマーである2-メトキシエチルアクリレートを重合することでOH基末端PMEAを合成した.合成したOH基末端PMEAは黄色の粘性を有するポリマーであった.さらに,分子量を解析したところ,数平均分子量,重量平均分子量はそれぞれ 6,100および7,700であった. (b)についてはOH基末端PMEAとジイソシアネートとの反応により水素結合基を導入することで固形化を試みた.合成したPMEAは黄色のフィルムであった.さらに,数平均分子量,重量平均分子量は32,000および83,000となり,反応前のOH基末端PMEAより分子量が増大した.さらに,フーリエ変換赤外分光測定によりPMEAの内部構造を解析したところ,OH基末端PMEAにはない水素結合に由来するピークが3200-3400cm-1に現れたため,分子内部への水素結合の形成により,PMEAが固形化したと考えられる.以上の結果は,従来常温にて液状であるがゆえに用途が限定されてしまうPMEAの問題に対し,固形化により形状を安定させ成形を可能にすることで,用途の拡大につながるという点で,大きな意義があると考えられる.
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