研究実績の概要 |
価数揺動物質における重い電子状態形成の起源を明らかにするために、YbPd、EuNi2P2に注目して点接合分光実験を行った。その結果、それぞれの物質において、以下のような結果を得た。 価数揺動物質であるYbPdは、低温においてYb2.6+とYb3+が周期的に配置された構造(価数秩序状態)をとる。このYbPdの点接合分光分光実験の結果、微分伝導度信号(dI/dV信号)に非対称なバックグラウンドとゼロバイアス近傍のディップ構造が現れることが分かった。dI/dV信号は、フェルミエネルギー近傍の電子状態を反映する。そこで、この信号を理論計算を用いた解析をしたところ、異なる価数状態を持つYbサイト(Yb2.6+, Yb3+)が独立に近藤共鳴状態を形成しているという事が分かった。従って、YbPdの低温における特異な磁気特性や重い電子状態の起源は、異なる価数を持つYbサイトで独立に近藤共鳴状態が形成されることによって局所的な電子状態が変調されることに起因している可能性があることが分かった。 EuNi2P2は低温において重い電子状態や価数揺動状態(Eu2.5+)を示す希土類化合物である。EuNi2P2の点接合分光実験の結果からdI/dV信号は、ゼロ電圧近傍に非対称なダブルピーク構造を持つことが分かった。また、このダブルピーク構造が温度依存性を持つことも分かった。dI/dV信号の理論解析から、非対称なダブルピーク構造は、伝導電子とf電子の混成(c-f混成)によって形成された新たな混成バントに起因していることが明らかになった。従って、EuNi2P2の低温における価数揺動状態や重い電子状態の起源は、c-f混成によって新たな混成バンドが形成されることに起因している可能性があることが分かった。 これらの結果は、点接合分実験による電子状態測定が希土類化合物においても有用であるということを強く示唆している。
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