本研究では、申請者がごく最近発見した非二倍体化による中心体制御の破綻が、生体内で細胞運命、組織機能にどのように影響するかを理解することを目的とした。 2020年度はまず、2019年度に発見した非二倍体ゼブラフィッシュ胚における中心体制御不全に付随する分裂異常および細胞死をはじめとする細胞運命制御不能の関係性を理解することを試みた。分裂頻度のタイムコースを解析したところ、二倍体コントロールでは発生ステージ依存的に分裂細胞が減少していたのに対し、非二倍体胚では発生が進んでも高い分裂頻度を維持していることを突き止めた。この結果は、2019年度の発見である非二倍体胚における発生ステージ後期に顕在化する中心体異常と一致しており、この中心体異常は分裂遅延を引き起こすことにより細胞運命に致命的な影響が与えられることが考えられる。 さらに2020年度は、細胞分裂制御以外の中心体機能にも着目することで本研究を発展させた。分化した非分裂細胞において中心体は細胞内外のシグナル応答を担う一次繊毛の形成拠点として機能しており、中心体異常は神経組織における器官形成不全や網膜症をはじめとした繊毛病を惹起する。そこで、非二倍体胚における視覚組織を調べるために目の光受容体を可視化した。二倍体コントロールでは目の外輪に沿って光受容体発現細胞が分布していた一方で、非二倍体胚では光受容体細胞の分布エリアが劇的に減少し、光受容体の発現パターンが著しく乱れている様子が観察された。この非二倍体胚における顕著な組織形態異常は、細胞の非二倍体化により器官形成および組織機能が破綻することを示唆する。 本研究結果から、非二倍体細胞では中心体制御不全によって、細胞運命制御および組織機能に致命的な影響が階層的に生じていることが推察される。
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