研究課題/領域番号 |
19J12224
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森 健太 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超音波 / 信号処理 / 瞬時振動数 / 締結 / 接触荷重 |
研究実績の概要 |
超音波パルスを用いる非破壊検査法は取り扱いが簡便で製品の保守検査や品質管理に重宝される.一方で,対象物内部が層構造等であるために超音波パルスの干渉が起こる場合には,生の計測データ(測定波形)から物体の状態を評価しづらくなる.このような場合にも,超音波パルスの瞬時振動数に着目することで状態評価が可能であることを提案する.2019年度までには予定通り「機械構造物の接触力」「ボルト締結力」「接着剤の接着力」の評価を試みた.ここでは各個,実施状況を報告する. 「機械構造物の接触力評価」:構造物全体に圧縮力を加えて界面接触力を管理しつつ,超音波計測を行う実験に取り組んだ.その結果,接触力に応じた明瞭な変動が超音波パルスの瞬時振動数に現れることを確認できた.また数値解析を通じ,接触力に応じて界面潤滑油が圧縮されることが瞬時振動数の変動要因であることも特定でき,当初の期待通りの結果を得ることができた. 「ボルト締結力評価」:測定パルス波後半の時間帯に瞬時振動数の顕著な変動が現れることがわかっており,研究計画時点においては,ねじ山表面を沿うように伝わるボルト迂回波がその変動要因であると予想していた.しかし,ねじ山で多段反射する波が存在することが新たに判明し,こちらが正体であった.この波はねじ界面を透過する回数が多いことから締結力の影響を受けやすいこともわかり,この新たに発見した波に着目することで有効な評価を行えると期待される. 「接着剤の接着強度評価」:金属片を接着した対象物に超音波計測を行う接着強度評価実験に取り組んだ.その結果,接着強度の影響よりも接着剤厚さの影響が超音波パルスの瞬時振動数に顕著に現れることが判明した.したがって,当初,評価目的としていた「接着剤の接着強度」は困難度が大きいと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに当初予定していた実験を行い,3つの対象ごとに評価の実現性を探ることができた.「接着剤の接着強度評価」のように,計測目標が超音波に有効に作用せず評価が難しい場合もあるとわかったものの,「機械構造物の接触力評価」や「ボルト締結力評価」のように,たとえ微小であろうと超音波に有効な作用さえあれば瞬時振動数には明瞭な変化が現れることもわかり,既存技術では難しい計測目標においても評価を実現し得ることを確認できた.また,接触力と超音波信号との関連要因となる現象を特定できたことや,評価に有効と考えられる新たなパルス波の存在を発見できたことも成果であると考えている. 一方で,当初予定していた送信パルス波の振動数特性と瞬時振動数変化との対応関係を明らかにすることについては未達成の状況であり,やや進行が遅れている面がある. また,実験データを分析すると,瞬時振動数に着目したときに計測目標としていない要素(例えば接着力評価時の接着剤厚さ)をも捉えることがあり,計測目標の定量評価に悪影響を及ぼし得ることがわかった.「機械構造物の接触力評価」「ボルト締結力評価」においても,わずかな影響ではあるものの検査対象個体ごとの幾何性状のバラつきを捉えている傾向が見られ,新たに対応策を考案する必要が出てきた. 以上のように実験面では予定通りのデータを収集することができたものの,理論解析面での検討が十分でないことや新たな対応策が必要であることから,当初の予定よりやや遅れていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案する瞬時振動数に着目した評価法が優れた性質を持つことを実験から明らかにできた一方で,瞬時振動数に着目したときに計測目標としていない現象をも捉えることがあり,計測目標の定量評価に悪影響を及ぼし得ることがわかった.これに対し,まずはこれまでの実験で得られた瞬時振動数値を集計することでデータのバラつき量(分散)を定量化し,信頼可能な評価精度を明らかにすることを行う.これには統計的な解析により実現できると考えている.次に,非計測目標の影響が混入した信号から,計測目標に関する成分のみを抽出することを試みる.適切な物理モデルを構築したうえで解析解と実験結果とを合わせ込むことを行うように考えている.その際,評価目標とする現象とそれ以外の現象も物理モデルに取り入れることで,両者を独立的に同定できると期待している. また理論面においては,信号の有効変動量を向上するような送信周波数があると予想されるため,送信パルス波の振動数特性と瞬時振動数変化との対応関係を定式化するように試みる.送信パルス波の特性を数値上に再現してパルス波干渉シミュレーションを行い,定式化の足掛かりとする.定式化により計測対象に合わせて最適な送信特性を選択できるようになることから,推定精度の向上が期待される.この他,瞬時振動数情報に加えて瞬時振幅情報についても同時に観察することで,より優れた評価手法を構築できないか検討することや,実信号から瞬時振動数を算出する手法について計算精度の向上を試みることについても並行的に取り組む予定である. なお,現在までの達成状況がやや遅れていることを鑑みて,評価法の実現可能性が大きいものから順次取り組むこととし,「機械構造物の接触力評価」と「ボルトの締結力評価」とを優先的に取り組むこととする.
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