超音波パルスを用いる非破壊検査法では,対象物が層構造であるなどの場合に超音波パルスの干渉が起こり,検査しづらくなることがある.このような場合に超音波パルスの瞬時振動数に着目することでパルス波の干渉を評価し,非破壊検査に活用することを提案している.前年度の研究から,接触する部材の間の微小な隙間に液体を介在させると,接触力に応じた微小隙間の厚さの変化を超音波パルスの瞬時振動数で捉えられることが明らかとなり,また,それを利用して接触力を推定し,機械構造物の組立精度を評価できることが示唆された.このため最終年度は機械構造物の組立評価に関する数種類の実験を行い,接触力の推定精度を検証することに取り組んだ. 既知の厚さの隙間をもつ試験片に超音波パルスを投射して瞬時振動数を計測する実験から,隙間厚さと超音波パルスの瞬時振動数の挙動との間に相関があることがわかり,並行して行った数値解析からもその妥当性が確かめられた.また,より実際の機械システムに近い装置を用意した実験では,接触力の増加に対して超音波パルスの瞬時振動数はおおむね一貫した変化を示し,隙間厚さが単調に減少していることを示唆した.その一方で,接触力や隙間厚さには接触面上の位置による違いが存在し,これらに空間的な分布があることも示された.また,装置の分解,再組立を行うと同一の接触力を与えても受信波の瞬時振動数が同一にならず,上述の分布も変わることがわかった.このような再現性の低下の要因には,実験のたびに部材の組み合い方がわずかに異なっていたことや,表面粗さと表面の汚れに起因するぬれ性がばらついていたことなどが挙げられ,本手法を実用化するには接触面を構成する部材の形状等を適切に設計し,微小なばらつきに影響されにくくすることが重要であると考えられた.
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