研究課題/領域番号 |
19J12228
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
深川 聖弥 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | C-H官能基化 / 触媒的不斉合成 / 繊維金属触媒 / 有機分子触媒 / キラルカルボン酸 / 分子の非対称化 |
研究実績の概要 |
申請時に予定していたチオアミドのエナンチオ選択的なC(sp3)-Hアミド化反応は、採用までの期間に達成することができたので、次にアミド化以外の反応へと展開することとした。まずは、それに必要なキラルカルボン酸含有シッフ塩基配位子の合成に着手した。配位子合成を進める中で、最終生成物であるSchiff塩基触媒が同一分子内に存在しているカルボン酸により分解していくことが判明した。種々の縮合条件の検討を行ったが、反応に用いることができる水準の触媒を調製することができなかったため検討を終了した。 また、上記の研究がうまくかなかったときのバックアップとして、特に難易度の高いエナンチオトピックなメチレンC(sp3)-H結合の識別を伴う不斉C(sp3)-H活性化反応について研究を行った。高原子価第9族遷移金属触媒を用いた同タイプの不斉反応は今までに例がないことから、キラルCpを用いる手法でも困難であることが予想されたが、キラルカルボン酸を用いることで本反応を達成することができると考え研究に着手した。種々の検討を行った結果、8-エチルキノリンを基質としたアミド化反応において、当研究室で開発したキラルビナフチルカルボン酸を用いることで、選択性が発現することを見出した。 また、上記のバックアップと平行して新規キラルカルボン酸の開発も行った。中心不斉や軸不斉を有するキラルカルボン酸は当研究室で開発しているものの、面不斉を有するキラルカルボン酸は開発されていない。そこで面不斉を有するキラルカルボン酸としてフェロセン骨格を有するキラルカルボン酸を設計し、その合成を行った。合成したフェロセンカルボン酸を様々なC-H活性化反応へと適用したところ、α位にアリール基を有するチオアミドのアミド化反応が高い収率、エナンチオ選択性で進行することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初より予定していた、キラルカルボン酸含有シッフ塩基触媒の合成を行った。しかし、同一分子内にカルボン酸とSchiff塩基が共存する最終生成物は、酸によるSchiff塩基の分解が生じてしまい不安定であった。そのため、純度の高い触媒を調整することが困難であり、検討を終了した。 一方、上記のバックアップとして高原子価第9族遷移金属触媒を用いたメチレン識別を伴う不斉C(sp3)-H活性化反応を進めていた。我々が独自に開発したキラルビナフチルカルボン酸を用いることで、8-エチルキノリンの不斉C(sp3)-Hアミド化反応が高いエナンチオ選択性で進行することを見出した。さらなる反応条件の検討の結果、4℃以下という低温度条件においてもC(sp3)-H結合を切断し、官能基化することができた。更に、8位にプロピル基やペンチル基が置換されたキノリンでも反応は進行し、高い収率、エナンチオ選択性で目的物を得ることに成功した。 また、上記とは異なるバックアップとしてキラルフェロセンカルボン酸の合成とその応用についても進めていた。α位にアリール基を有するチオアミドのアミド化反応は、アミノ酸由来のキラルカルボン酸では良い結果を示さないことが分かっていた。この反応をキラルフェロセンカルボン酸を用いて行ったところ良好な結果を示した。さらなる反応条件の検討を行ったところ、最高87:13のエナンチオマー比で目的物を得ることに成功した。 当初想定した反応はうまくいかなかったものの、それよりもはるかに困難な反応や新規キラルカルボン酸の有用性を見出し論文とすることができたことを鑑みて「期待以上の研究の進展があった」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、キラルカルボン酸を用いた反応系のさらなる拡大を目指し研究を進めていく。不活性なC(sp3)-H結合官能基化の不斉化や、従来法であるキラルCpを用いても構築が困難なキラル分子を、キラルカルボン酸を用いた不斉C-H活性化反応を応用することで、簡便に構築することを目指す。 キラルカルボン酸を用いた不斉C-H官能基化反応を十分に報告することができたら、次にC-H結合以外の不活性結合についても切断が可能かを検討する。切断が可能であれば、その分子変換法についても検討を行い、有用分子の簡便な構築手法として論文投稿することを目標とする。
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