以下に詳しく述べるように大きく分けて二つ、長波長潮汐力場が宇宙の構造形成に与える影響、及び初期条件に角度依存性をもつ原始非ガウス性がハロー形状に与える影響についての研究を進めた。 通常の宇宙論では背景時空の等方性が仮定されるため、シミュレーションも等方な背景の下で行われる。しかし、実際の宇宙にはあらゆるスケールにゆらぎがあると考えられること、および我々が観測できる領域は必ず有限であることに起因して、長波長潮汐力場の存在のために観測可能な有限領域では背景が実効的に非等方になりうる。そこで、背景時空の膨張を非等方にすることで非等方な長波長ゆらぎの効果を取り入れた宇宙論的N体シミュレーションを新たに開発し、このシミュレーションを用いることで、スカラー型摂動由来の長波長潮汐力場が特に小スケールの構造形成に与える影響について詳しく調べた。本年度はこの新たなシミュレーションを用いて長波長潮汐力場が小スケールの物質密度ゆらぎ及びハロー形状に与える影響を明らかにした。 インフレーションシナリオを選別するためには、原始ゆらぎのガウス統計からのズレ、原始非ガウス性を観測することが重要になる。N体シミュレーションの初期条件を改変し、角度依存性のある原始非ガウス性をもつ原始ゆらぎからスタートさせたシミュレーションを詳しく調べることで以下のことが判明した:(1)角度依存性のある原始非ガウス性はハローの形状相関に大スケールで特徴的な痕跡を残すが、ハローの数密度には影響を与えない。逆に、角度依存性のない原始非ガウス性はハローの数密度にのみ影響を及ぼし、ハロー形状には痕跡を残さない。(2)このことを利用して、来る銀河撮像サーベイ及び分光サーベイを組み合わせると、角度依存性のある原始非ガウス性と角度依存性のない原始非ガウス性を同時に、宇宙マイクロ波背景放射から得られているものよりも強く制限できる。
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