研究課題
2019年度の研究によって、次の研究成果をあげた。1. 鱗翅目昆虫アワヨトウMythimna separataの群生相系統の樹立に成功し、孤独相個体と群生相個体の間で、生理生化学的な差異を調査した。その結果、群生相個体群はストレス耐性が孤独相に比べ著しく低下している一方で、個体あたりの産卵数が増加、寿命が長くなることが分かった。研究成果は2019年にJournal of Insect Physiologyにて発表した。2. アワヨトウ由来生理活性物質N-acetyl tyrosine(NAT)は、寄生バチであるカリヤコマユバチCotesia kariyai の脱出誘導因子として同定された。NATを注射したアワヨトウは、何も含んでいないPBSを注射した個体に比べて、高温や薬剤に対する耐性が増加することが分かった。さらに、NATがミトコンドリア膜電位の一時的低下に伴った活性酸素放出を誘導することで、転写因子FoxOの核内移行を誘導することを明らかにした。研究成果は2020年にEMBO reportsにて発表した3. キイロショウジョウバエPhaedra1は、キモトリプシン型セリンプロテアーゼをコードしているものの、生理機能は未だに明らかになっていない遺伝子であった。致死的ストレス曝露後のショウジョウバエ幼虫脂肪体を用いたRNAseq解析によって、発現量が増加する遺伝子として同定した。ROSの一種であるH2O2の投与により発現量が増加したことから、ROSにより発現調節がされていると考えられた。また、Phaedra1の生理機能の解析を、Gal4-UAS system を用いて行った。その結果、Phaedra1の過剰発現はカスパーゼ3の活性化を引き起こし、一方で神経細胞特異的に抑制した場合には、致死的ストレス後の中枢神経系の細胞死が抑えられ、個体死誘導が1日遅延した(国内発表(4)-1)。以上の結果から、Phaedra1がストレス誘導性の個体死誘導に関与していることが示唆された。研究成果は2020年度内に然るべき学術雑誌にて発表する。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、アワヨトウを用いた生理生化学的解析は一通り終了した。また、ショウジョウバエを用いた解析により、新規ストレス応答遺伝子を同定することに成功した。
現在、2019年度同定した新規ストレス応答遺伝子の変異体(過剰発現・抑制)や抗体の作成を行っている。2020年度は、この遺伝子の機能解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
EMBO reports
巻: - ページ: -
10.15252/embr.201949211
Journal of Insect Physiology
巻: 117 ページ: 103889~103889
10.1016/j.jinsphys.2019.05.007