研究課題/領域番号 |
19J12275
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 凌 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 消費者 / 商業学 / 消費組合 / 配給論 / 新体制運動 / 消費社会 |
研究実績の概要 |
本年度は、今までの研究進捗を踏まえ、以下の研究を実施した。 第一に、戦前期における消費組合運動に関する研究である。本対象については、これまで歴史学者などによって分析がされてきたものの、本課題が主に関心を持つ「消費者」概念の変遷という観点からは分析対象となってこなかった。今年度調査・分析を通じて、本研究では本運動が戦前期の「消費者」概念の主体化において極めて重要な役割を有していたことを明らかにした。 第二に、戦前期における商業学者の言説に関する思想史的研究である。本対象については、これまで経済思想史家の手によって、主に統制経済論の先駆者としての側面が注目されてきた。一方、戦前期に彼らが論じた「配給論」に関する議論は、あまり注目されてこなかった。今年度調査・分析を通じて、本研究では商業学者の議論において統制経済論と配給論が分かちがたく結びついていること、そしてその中に「消費者」概念の変容を見いだすことが出来ることを論じた。 第三に、戦中期、特に新体制運動期における「消費者」をめぐる言説についての研究である。新体制運動については、これまで日本社会思想史・経済思想史の文脈で多くの研究が行われてきた。だが、この時期の新体制運動と連関した「消費者」概念の運用変化については、この時期急激な消費状況の変化が生じていたにもかかわらず多くが語られてこなかった。今年度調査・分析を通じて、本研究ではこの時期の様々な思想的運動と、それと連関した流通システムの変革が、同時代的な「消費者」概念の変容と相関的な事象であったこと、そしてその概念運用変化の主たる担い手が、消費組合や配給を研究する知識人であったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期待通り研究が進展した。資料収集については神戸市の幾つかの資料館・大学図書館から、これまで殆ど分析されてこなかった一次資料(新聞記事・パンフレット)などの発掘に成功した。これらの資料は戦前期における「消費者」概念の変容を検討する上で、重要な資料であると考えられる。 研究の報告については、学術誌に前年度より進めていた消費組合運動に関する論文が掲載された。また、2020年度に出版予定の論集2冊に対し、ブックチャプターを1本ずつと、翻訳論文の掲載が決定している。また、現在戦前期における商業学者の言説に関する論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルスの影響により、新規資料の調査については2020年度前半は断念せざるを得ないが、状況が回復次第調査を再開する。幸いなことに資料収集についてはほぼ目処がついている状況のため、今後は収集した資料を深堀りし、今年度行った調査研究の内容を精緻化すること、および研究結果の書籍化を目指すこととしたい。
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