本年度の研究実績については、下記のとおりである。 第一に、本研究課題の主たる目的であった、「消費者という経済主体の誕生と変容」を、近代日本の社会思想史・経済思想史を通じて描き出すことに成功した。具体的には、これまで取り組んできた戦間期日本における統制経済論と消費組合論に関する分析を、「消費者」概念の用法という観点から接合することで、戦後日本における「消費者主権」論の広範な広がりを説明することが可能になった。これは近年議論が積み重ねられてきた「総力戦体制」について、これまでとは異なる観点からその意義と問題点双方を示すものであり、また近代日本における社会思想・経済思想の展開を、独自の観点から論じるものでもある。なお、本研究については、書籍化が決定しており、2022年度中の刊行を目指している。 第二に、本研究課題の遂行を通じて、現代社会における経済現象を論じるための新たな視座を獲得することができた。特に本研究において、日本型「消費者主権」論の形成過程を理論的に位置づけるための枠組みとして、フーコーの統治性論を批判的に採用した結果、新自由主義思想と現代社会の関係性について、これまでにない観点からの議論を行うためのフレームワークを得ることが可能になった。このフレームワークを用いた現代社会に関する実証研究については、①POSシステムに代表される消費者需要の観測システムの拡大による、「消費者主権」をめぐる議論の布置の変容②新自由主義思想と近年の地域開発計画の論理の関係性、以上2点を中心として、2022年度以降積極的に遂行していく予定である。
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