本研究課題では,植物表皮細胞においてスフィンゴ脂質が伝達する位置情報シグナリングに関する研究を行ってきた。その内容は,(1)モデル植物シロイヌナズナの表皮細胞分化における鍵転写因子ATML1の安定性とATML1-脂質間相互作用の関係性の解析,(2)ATML1の相互作用脂質の同定,(3)ATML1の相互作用脂質の動態解析,に分類される. (1)モデル植物シロイヌナズナの表皮細胞分化における鍵転写因子ATML1の安定性とATML1-脂質間相互作用の関係性の解析;熱処理依存的にATML1をすべての細胞で一過的に発現することができる形質転換シロイヌナズナを作出しATML1の翻訳後動態を観察したところ、ATML1は最外層のみで安定的に存在することができ、内側の細胞では積極的な分解を受けることを明らかにした。さらに脂質ドメインに変異を入れたATML1を熱処理依存的にすべての細胞で一過的に発現することができる形質転換シロイヌナズナを作出し同様の解析を行うことで、最外層特異的なATML1の安定性がATML1-脂質間相互作用に依存することを明らかにした。 (2)ATML1の相互作用脂質の同定;網羅的なProtein-lipid overlayアッセイによって、ATML1の相互作用脂質として極長鎖脂肪酸を含むセラミド(VLCFA-Cer)を同定した。 (3)ATML1の相互作用脂質の動態解析;VLCFA-Cerの生合成阻害剤を用いた解析により、VLCFA-Cerが表皮細胞の中でも”外側 ”に位置する頂端膜に局在することを強く示唆する結果を得た。 これらの成果から、脂質と転写因子の物理的相互作用により、脂質の持つ位置情報と転写因子による遺伝子発現制御系がクロストークして表皮分化が達成されるモデルを世界に先駆けて提唱した 。
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