研究課題/領域番号 |
19J12449
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小泉 光 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 発育期 / 低強度運動 / PCP |
研究実績の概要 |
ストレス社会とも称される現代社会において、メンタルヘルス増進は重要な健康課題である。近年発育期の子どもを対象とした早期介入による予防効果が着目されるも、罹患者が多く重篤な症状を示す統合失調症 (SZ) に対する効果は明らかではない。SZは周産期の何らかの原因により、初期の脳発達に異常が生じ、それに起因した前頭前野や海馬における神経回路障害により発症すると想定されるが、この予防・改善方法は確立されていない。一方、運動は脳機能の向上・メンタルヘルスの増進に寄与し、とりわけストレス応答を伴わない低強度運動トレーニング (LET) が認知や情動を司る海馬の神経可塑性を高めることから、SZ予防への応用が期待される。 以上を踏まえ、本研究では発育期のLETがSZ様行動異常を予防するメカニズムを明らかにすることを目的とし、病態モデル動物を用いた実験を行った。実験には、胎生期のPCP (Phencyclidine) 投与によりNMDA受容体の機能低下が惹起され、成熟後に異常行動を示すモデルマウスを用いた。本モデルマウスに4週間のLETを課し、行動異常やNMDA受容体の機能低下が抑制されるかどうか、行動実験およびウエスタンブロット法を用いて検討した。その結果、SZモデルで生じていた認知機能障害が4週間のLETにより抑制されることが明らかとなった。一方、SZモデルマウスで低下したNMDA受容体活性は4週間の運動介入で改善しなかった。 加えて、この運動効果に運動強度依存性があるかどうかを検討した。その結果、低強度のトレーニングで見られた予防効果は、高強度の場合では得られず、陽性症状を反映すると想定されるPCPへの行動感作では増悪する傾向が見られた。この知見は、神経可塑性を高め、精神疾患の予防効果を発揮する運動様式として低強度運動が有用とする本研究の作業仮説を支持するものとして重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、既報のNMDA受容体活性の低下など、病態モデルマウスを裏付ける神経基盤が分子レベルで確認できず、その問題解決に莫大な費やした。サンプリング手法等条件検討を重ねた結果、モデルマウスでNMDA受容体活性の低下していることをウエスタンブロッティングで再現し、病態モデルマウスの妥当性を確認することができた。今後、この条件を用いて運動効果の分子基盤解明に向けた実験を開始できる。
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今後の研究の推進方策 |
運動効果の分子基盤解明に向け、SZモデルで低下したグルタミン酸シグナル伝達能に対し発育期の運動トレーニングが及ぼす効果を検討するとともに、網羅的な遺伝子発現解析を実施する。 4週間の運動介入によりSZモデルマウスで見られる行動異常は抑制されたものの、低下したNMDA受容体活性は改善しなかった。このことから、NMDA受容体そのものではなく、他の経路を介してグルタミン酸シグナル伝達能を改善している可能性がある。そこで本年度は、SZモデルマウスにおいて低下した認知課題実施時のグルタミン酸シグナル伝達の低下に対し、運動がこれを改善するかどうか、Ca2+シグナル伝達やMAPキナーゼ経路の活性から検討する。加えて、これらのシグナル伝達能を改善しうる要因を明らかにするため、RNA-seqを実施する。
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