本年度は、発育期の低強度運動が統合失調症様行動異常を予防する神経基盤を明らかにすることを目的とした。運動が統合失調症の神経基盤と想定される前頭前皮質の機能低下を改善するかどうかを、胎生期PCP投与モデルマウスを用いて検討した。 昨年度の研究成果より、先行研究において報告されているNMDA受容体活性の低下に対する運動効果が認められなかったため、運動効果はグルタミン酸作動性神経系とは別の神経基盤を介していることを想定した。そこで、前頭前皮質におけるドーパミン (DA) 代謝をHPLCにより検討したところ、胎生期PCP投与による影響は見られないものの、運動によるDOPAC含有量の減少、3-MT/DA比の増加が見られた。このことから、発育期の低強度運動は前頭前皮質のドーパミン代謝を調整することが示唆された。 続いて、運動効果がシナプス間の情報伝達だけでなく、その下流で生じる情報伝達にも見られるかどうかを検討した。新奇物体認識試験において学習試行中のマウスから前頭前皮質を採取し、物体認知記憶の固定化に関わる分子の活性化をウエスタンブロッティングにより検討した。その結果、胎生期PCP投与により新規物体暴露で誘導されるERK1/2活性化が阻害されており、運動がこれを改善することが明らかとなった。 以上の結果から、発育期の低強度運動が統合失調症様行動異常を改善する背景には、運動による前頭前皮質のシグナル伝達能の正常化が関与することが示唆された。
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