令和元年度の研究において、私はpiRNAの生合成機構の一端を解明することに成功した。piRNAとは生殖組織特異的に遺伝子発現制御を行う小分子RNAであり、その機能不全はトランスポゾンの脱抑制を引き起こし個体を不妊にいたらしめる。つまり、piRNAは生殖組織のゲノム安定性に必須な分子と言える。 私はそのpiRNAが二次的に増幅されるピンポンサイクルという経路に着目した。特にピンポンサイクルにおいてAgo3というPIWIタンパク質によって作られるpiRNAについての未解明なことが多かったためAgo3に注目して研究を行った。私が解明したことは主に以下二点である。一つ目はAgo3がRNA切断断片を連続的かつ規則的に産生することでpiRNA中間体を生成していることである。RNAi法を用いたSiwiという遺伝子の発現抑制を行い、ピンポンサイクルを人為的に停止させることでRNA断片切断状態のAgo3を単離し、そのRNAを抽出した。そしてそのRNAをシーケンス解析することによりAgo3が連続的に効率よくpiRNAの元となるpiRNA中間体を賛成していることを示したのである。二つ目はAgo3結合タンパク質であるVretがAgo3依存的piRNA生合成の足場となることである。Ago3は核周辺に存在する顆粒体Nuageに局在することで正常なpiRNA生合成機能を発揮できることを明らかとした。そして、その局在にVretというタンパク質が必須でありAgo3をNuageに引き留めていることが解明されたのである。
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