令和2年度は、本研究課題の最終年度として、巨大ガス惑星まわりの衛星形成理論とそれによって得られる化学組成を紐付ける研究を行い、博士論文を執筆した。また、前年度から引き続き行っていた土星リングと衛星の相互作用を明らかにする大規模N体シミュレーションを用いた研究結果を、欧州の天文学会誌であるAstronomy & Astrophysics誌に査読付き論文として投稿し、出版された。 まず令和2年度前半では、前年度から取り組み始めた、大規模N体シミュレーションを用いた土星リングと衛星の相互作用に関する研究に従事した。土星リングと衛星を模擬した数値計算を行い、衛星の軌道が土星リングの影響を受けてどのように変化するかを調べた。数値計算結果の解析を行うことで、これまで調べられてこなかった詳細なリング粒子と衛星間の物理過程が明らかになった。このような革新的な結果が得られたため、国際雑誌に受理・出版された。 そして令和2年度後半では、博士研究の集大成として、これまで取り組んできた衛星形成物理過程と化学組成に関する情報を紐付ける研究を行った。土星リングが形成される過程の数値計算を行い、形成過程でリング粒子が経験した温度変化を調べた。その結果、物理・化学の両面において新しい示唆が得られた。リング形成の物理過程については、従来の研究で提案されてきたモデルとは部分的に異なる新たな衛星形成・進化過程をたどった可能性が示された。さらに、リング粒子の温度変化を調べることで、衛星材料物質の化学組成に関しても示唆を与える研究となった。このように土星リングの形成と化学組成を結びつける研究は新しく、今後の探査や観測に繋がる重要な研究のファーストステップと言える。最後に、これらの内容を博士論文としてまとめ、執筆した。
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