研究課題/領域番号 |
19J12589
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
芳野 遼 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 多孔性配位高分子 / 磁気秩序 / スピンクロスオーバー / ガス吸着 / 包接体 |
研究実績の概要 |
申請者は、ヘキサシアノ、テトラシアノ金属酸イオンを構築素子とする多孔性配位高分子 (PCP) を合成し、多孔性機能と磁気特性の連動およびゲスト分子の細孔内挙動とスピン状態の相関機構の解明を目指して研究を推進した。 本年度は、PCP の構造変化およびゲスト分子の細孔内挙動と磁気挙動の相関の評価を進め、(1) In situ 磁気測定と軟X線吸収分光による脱ゲストによるアモルファス化と磁性変化機構の解明、(2) In situ 磁気およびX線回折測定による CO2 吸脱着による磁気秩序相の可逆的変換の達成、(3) In situ 磁気測定による包接したプロパン分子の運動に連動した非平衡磁気相変化の発見、(4) In situ X線回折測定および Rietveld 解析によるゲスト吸脱着による構造の次元性変化機構の解明に関する研究課題を遂行した。また、これらの成果を国内外の学会で発表して高く評価され、学生奨励賞(口頭発表)1件とポスター賞を2件受賞した。現在、(1) と (2) の成果を投稿論文にまとめており、(3) と (4) についても、次年度に細部を詰めて論文発表する予定である。 以上より、本年度はゲスト吸着状態での in situ 物性測定システムを独自開発し、ゲスト分子に対して応答性の高い PCPs を合成することで、多孔性機能と磁気特性の連動およびゲスト分子の細孔内挙動とスピン状態の相関メカニズムの解明を目的として研究を推進した。特に (3) においては、前例のない特異な挙動を発見しており、今後その詳細を解明することで、大きなインパクトを与える成果となると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) では、アモルファス構造を有する配位高分子の局所的な構造情報を L2,3 端吸収端軟X線吸収分光 (XAS)、 K端 X 線吸収近傍微細構造 (XANES)、 X 線吸収広域微細構造 (EXAFS)、さらに真空雰囲気下での in situ 磁気測定を実施することでゲスト吸着特性との相関関係の解明に至った。 (2) では、ダブルレイヤー構造を有する多孔性分子磁性体の CO2 吸着に連動したメタ磁性-強磁性間の磁気秩序相変換のメカニズムを in situ 磁気および X 線回折測定から明らかにした。 (3) では、磁気双安定な多孔性配位高分子のアルカン包接体が特異な多重スピン状態変化を示すことを見出した。特にプロパン包接体では降温過程において4段階の磁化率の変化、昇温過程では2段階で磁化率が増加した後に減少する異常な挙動示すことが分かり、さらに磁化率の減少の割合は温度変化速度に依存し、遅いほど大きく減少し、速いと4段階の磁化率の増加を示すことから、この磁気挙動が磁気的な非平衡状態を反映していることが示唆された。 (4) では、骨格内に磁気特性およびゲスト分子との相互作用部位を導入した新規の一次元鎖状型配位高分子、さらに脱水処理によって得られる二次元中空型配位高分子を合成し、真空下およびゲスト雰囲気下における複数の in situ 物性測定を行うことで、ゲスト応答的な磁気特性変換の発現に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果を踏まえ、今後は以下の4項目について研究を推進し、細孔空間の適切な設計、特に骨格の低次元化によって細孔の体積とゲスト分子の密度を制御し、細孔内に束縛した分子の物性と骨格物性との相関を系統的に調査することで、吸着分子と骨格の物性・構造が高度に連動した分子包接体の物性科学を展開する。 (1) については、in situ 磁気測定を行いゲスト吸脱着による配位環境の変化を調査することで、X 線吸収分光で観測された情報の裏付けを行い、論文発表を行う。 (2) については、in situ FT-IR スペクトル測定からホスト-ゲスト相互作用に関する情報を収集し、データを取りまとめて論文投稿を行う。 (3) については、アルカンの細孔内挙動をガス雰囲気下 FT-IR および Raman スペクトルの in situ 同時測定、および固体 NMR により追跡し、プロパンの相転移と分子包接体の磁気特性との相関を in situ DSC 測定により考察する。また、骨格とアルカン分子間には C-H…π 相互作用が働くことが予想されるため、SPring-8 でガス吸着状態の単結晶および粉末 X 線構造解析を行い、細孔内の気体分子の状態を決定し、静電ポテンシャル分布解析と理論計算からホスト-ゲスト相互作用について検討する。 (4) については、ゲスト依存的な単結晶-単結晶構造変換および磁気特性変換のメカニズムを DFT 計算により考察し、論文投稿を行う。
|