研究課題
全身に対する所有感は,部分所有感と異なり自己に深く関わっていると考えられている。本研究では,全身を拡張することで自己を拡張することを目的とした。2つの身体に対して全身所有感を誘発することで,自己を2つに拡張されるという仮設を立て,実験を行った。実験では,バーチャルリアリティ(VR)空間上の鏡に被験者の動きに同期または非同期に動く2つのアバタを提示し,被験者は一人称視点からヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通して刺激を観察した。被験者の運動はモーションキャプチャで計測され,2つのアバタへリアルタイムで反映された。身体所有感を誘発するため,実験中被験者は,VR空間上のボールを触って消すよう指示された。2分後,ランダムなタイミングでバーチャルなカッターがアバタを切るよう動き,そのときの皮膚コンダクタンス反応(SCR)を計測した。最後に,身体認知に関するアンケートを実施した。その結果,アンケートにおいて2つの身体が被験者の運動に同期しているとき,2つの身体の両方が自分の身体であるように感じられると評価された。しかし,SCRからは身体所有感が生起したといえる結果は得られなかった。次の実験では,同様の刺激を提示し,被験者の自己位置を計測するため,Cross-modal congruency task (CCT)を実施した。その結果,身体の同期性に関係なく,被験者の自己位置が常に右側にシフトしていることが示唆された。これらの結果から,2つの身体に対する所有感は弱いこと,右側の身体に対する所有感が左側の身体よりも強いことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2つの全身アバタに対して所有感を誘発する方法を開発し,実験を行った。一部の結果は予想と異なったものの,新規性の高い結果を得たことから,本研究は概ね順調に進展していると判断した。
昨年度に実施した2つの身体に所有感を誘発する実験の問題点を見直し,追加実験を行うことで,2つの身体に同時に所有感を誘発させる方法を確立させる。追加実験では,昨年度の実験で問題になっていた疲労や左右差の影響を可能な限り取り除く。次に,2つの身体への所有感を誘発することで,自己が2つに拡張されるか調べる。最初は主観評定を行い,その結果を元に新たな実験を自己意識の研究を参考にしながら行う。最終的に自己の拡張を客観的に計測する指標の確立を目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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