研究課題/領域番号 |
19J12745
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀧澤 修平 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | ルーメン微生物 / セルラーゼ / ザイモグラム / 凝結凝集法 / メタゲノム解析 / 植物系バイオマス |
研究実績の概要 |
本研究は、植物系バイオマスの分解に寄与するルーメン微生物を明らかにし、その微生物を高密度・減容化することを目的としている。本年度は①ルーメン微生物群集におけるセルロース分解を担う微生物の推定、②ルーメン微生物の高密度・減容化方法の開発を試みた。 ①植物系バイオマス分解酵素の一つであるエンドグルカナーゼに着目し、ルーメン微生物群集のエンドグルカナーゼ活性をザイモグラムによって解析した。分子量の異なる複数のエンドグルカナーゼが高い活性を持っており、またセルロース分解過程で高活性なエンドグルカナーゼの分子量は遷移することを初めて明らかにした。また、これらのエンドグルカナーゼ活性と微生物群集構造の遷移を相関解析したところ、プロトゾアや未培養の細菌が正の相関を示したことから、これらの微生物がセルロースの分解に寄与することが初めて示唆された。 ②ルーメン微生物を高密度化する方法として、ポリ硫酸第二鉄および石膏系凝集剤を用いた凝結凝集法に着目し、ルーメン液に対する凝結剤の添加濃度を検討した。凝結剤をルーメン液に対し0.7%添加することで、ルーメン微生物を最も効率的に高密度・減容化できることが明らかになった。さらに、高密度化したルーメン微生物は、課題①で特定した高活性エンドグルカナーゼの活性を保持しており、植物系バイオマスを高効率に可溶化することが示された。 以上より、セルロース分解に寄与する微生物を凝結凝集法によって高密度・減容化できることが示唆された。これらの成果は、ルーメン微生物群集を用いて植物系バイオマスを効率的にエネルギー化するための重要な知見である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
課題①においては、エンドグルカナーゼ活性の分析方法の確立やメタゲノム解析に時間を要し、高活性エンドグルカナーゼの産生微生物に特異的なプローブの作成まで進められていないが、ルーメン微生物群集において高活性なエンドグルカナーゼの分子量と活性の消長を明らかにし、エンドグルカナーゼ産生微生物を推定することができていることから、今後は計画通り進む見込みである。 課題②においては、当初の研究計画よりも進展しており、ルーメン微生物を高密度・減容化する方法を開発することができた。また、高密度化したルーメン微生物の多糖分解酵素活性や微生物群集構造を明らかにしており、この研究成果は、国際学術雑誌 Journal of Cleaner Productionに掲載された(Takizawa et al., 2020)。 さらに、別の課題においても原著論文を2報(Takizawa et al., 2019, 2020)発表していることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、高活性なエンドグルカナーゼの分子量と活性の消長を明らかにすることができているので、今後は特定した高活性エンドグルカナーゼの特徴やそれらの産生微生物を詳細に解析する予定である。高活性エンドグルカナーゼをSDS-PAGEによって分離し、質量分析またはN末端アミノ酸配列分析を用いてアミノ酸配列情報を取得する。得られたアミノ酸配列情報を元に、高活性エンドグルカナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を明らかにし、その配列をデータベースやメタゲノム解析で得られたデータと照合することでエンドグルカナーゼ産生微生物を特定する。高活性エンドグルカナーゼの産生微生物に特異的なプローブを作成し、植物系バイオマスにおけるエンドグルカナーゼ産生微生物の定量および分布を明らかにする。さらに、エンドグルカナーゼ遺伝子を大腸菌で発現させ、高活性エンドグルカナーゼの生化学的特徴を明らかにする。 また、多糖分解酵素の一つであるキシラナーゼについても同様の分析を行い、高活性なキシラナーゼの特徴とその産生微生物の特定を試みる。エンドグルカナーゼとキシラナーゼの分析で得られた結果を照らし合わせることで、ルーメン微生物群集による植物系バイオマスの分解特性を明らかにする。
|