研究課題/領域番号 |
19J12787
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤咲 貴大 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | NVC / ナノダイヤモンド / pH / 量子センサ / ナノメートル |
研究実績の概要 |
がん細胞では、Na+/H+交換輸送体から数ナノメートル近傍の pHが局所的に低くなることにより、免疫抑制や細胞外マトリックス分解、組織浸潤が促進されることが報告されている。このように、局所的なpHの変化は生命機能と深く関連しているため、ナノメートルオーダーの局所的なpHを測定する技術の確立が待望されている。しかしながら、蛍光たんぱく質や蛍光低分子を用いた従来のpH計測では、一定体積以上のプローブの集団から蛍光を取得する必要があるため、空間分解能がマイクロメートルオーダーに制限される。 今回、ナノメートルオーダーの空間分解能を実現するための蛍光プローブとしてナノダイヤモンド(FND)中の窒素-空孔中心(NVC)に注目した。また、NVCはスピンと呼ばれる磁気的な性質を持ち、この性質を用いることでナノメートルスケールの温度や磁場といった物理量を測定可能であることが知られている。本研究では、化学修飾によってFNDをナノメートルオーダーの空間分解能を有するpHセンサーとして機能化することを目的とした。 具体的な今年度の成果としては、本研究で重要なマイルストーンの一つであるサンプルの作成に成功した。ナノダイヤモンドをpH依存的に伸縮するポリマーで修飾し、その末端をスピンラベルをした。これにより、pH変化によってNVCとスピンラベルの距離の変化する。それを NVCの縦緩和時間の変化として検出することによって、pH変化を検出できることを示した。また、2019年9月には、ACS Nanoに本研究の途中経過に関する論文が掲載された。今後、細胞内のアクチン近傍のpH変化をモニターすることで、実際の細胞内のアクチンの重合とpHの関連を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は概ね順調に進展していると考えられる。理由としては、最も重要な段階の一つであるサンプルの作成に成功したことが挙げられる。新しい原理でpH測定の手法を立ち上げるに当たって、今回申請書にて提案したpH測定プローブのシステムが機能するかどうかが鬼門であった。 その中で、ナノダイヤモンドをpH依存的に伸縮するポリマーで化学修飾し、DLSを用いて意図した機能が発揮されていることを確認した。また実際に、複数のスピンラベル剤を検証し、最適なものを選別した。結果、鉄イオン粒子をポリマーの末端に修飾したサンプルを用いることで、NVCの縦緩和時間を変化を介してpH変化を検出できることが示された。したがって、今回提案したpH測定プローブシステムがきちんと機能することを、実験的に証明することができた。 また、この研究の途中過程までに得られた結果をまとめて、国際雑誌ACS Nanoに投稿しアクセプトされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、まずサンプルの最適化を行う予定である。モノマー共重合比を変化させたサンプルを作成し、DLSを用いてpH認識領域および可逆性を評価する。ダイナミックレンジが広く、可逆性の高いサンプルの作成条件を模索する。また、ポリマーの長さを検討することで感度を最適化する予定である。また、ここまでに得られた結果をまとめて論文として投稿する予定である。 その後、実際の細胞内への展開を予定している。作成したサンプルの末端にさらにアクチンを修飾する。このサンプルを細胞内に導入することでアクチンにサンプルを修飾する。染色したアクチンの動態とpHのモニターを同時に行うことで、アクチンの重合の制御とpH変化の関連を明らかにする予定である。
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