細胞内のナノメートルオーダーのpHは空間的に異なった分布を持つ。細胞のpHの異常は様々な疾患と関連することが知られているため、このナノメートルオーダーのpHの空間的な分布を可視化することができれば、一細胞という極微量の試料から病気の診断が可能になると考えられる。 M R I(Magnetic Resonance Imaging)は、物理量の空間的な分布を可視化する技術であり、実際の医療の現場でも使用されている。しかしながら、従来のコイル検出によるMRIにおいては、空間分解能がマイクロメートルオーダーに制限される。本研究では約100 nmの蛍光ナノダイヤモンドを検出器として用いることで、ナノメートルオーダーの空間分解能でのpHセンシングを実現した。 これまでの研究において、蛍光ダイヤモンドの表面をカルボキシ基で修飾することで、縦緩和時間T1の変化を介して、ナノメートルオーダーの空間におけるpHを測定可能であることを示している。今回、このカルボキシ基で修飾した蛍光ダイヤモンドを用いることで、ナノメートルスケールの空間分解能でのpHのイメージングの方法を新たに考案した。 T1に対して重み付けした色でピクセルを生成することで、T1強調画像を作成した。このT1強調画像を様々なpH条件下で作成したところ、カルボキシ基のpKaに対応するpH付近でT1強調画像が大きく変化した。カルボキシ基の電荷状態が中性からマイナスに変化することでT1強調画像が変化したと考えられる。実際にpHとT1強調画像が相関しているのかを定量するために、pHと蛍光強度の非線形相関係数を算出したところ0.99となった。この結果から本手法によってナノメートルスケールの空間分解能でpHを可視化できることが示された。本研究結果は、国際雑誌Chemosensorsに掲載された。
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