研究課題
本研究では、様々な加齢性疾患の早期診断マーカーや治療標的として近年注目されている“タンパク質中D-アミノ酸残基”の網羅的精密分析法の開発を行った。タンパク質における微量D-アミノ酸残基を正確に分析するためには、複数の分離モードを組み合わせた二次元HPLC、重塩酸加水分解および質量分析(MS/MS)を統合する方法が有用であると期待されており、前年度までに代表的な10種のアミノ酸残基を対象とした一斉分析法を構築した。本年度は実際のヒト疾患試料を分析するとともに、これまで分析困難であったアミノ酸の前処理法について検討した。ヒト疾患試料としては、九州大学病院との共同研究により収集した水晶体タンパク質(白内障患者)を使用した。水晶体クリスタリン中では加齢に伴うアスパラギン酸(Asp)残基の異性化が報告されているが、今回解析を行った結果、多量のD-Asp残基に加えて比較的多量のD体が検出されるアミノ酸残基が新たに認められた。これらのアミノ酸残基は白内障における新規治療標的になり得ると考えられ、本分析法の医療応用が期待される。酸加水分解による分析が困難なシステイン(Cys)残基については、還元カルボキシメチル(CM)化反応を用いる前処理を検討した。CM化によりチオール基が保護されたCys残基は重塩酸加水分解および二次元キラルHPLC-MS/MSシステムによる定量分析が可能であり、今後は様々な加齢・劣化タンパク質試料の分析が期待される。また、同じく分析が困難であったAsp/アスパラギン(Asn)/グルタミン酸/グルタミン残基の一斉キラル識別分析については、ホフマン転位反応を用いた前処理により、様々なタンパク質・ペプチド試料の分析を行った。その結果、劣化モデルタンパク質(pH 7.0、37度で16週間保存したマウスリゾチーム)において保存期間の延長に伴うD-Asn残基の異性化が認められた。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Biochim. Biophys. Acta - Proteins and Proteomics
巻: 1869 ページ: 140540
10.1016/j.bbapap.2020.140540
巻: 1868 ページ: 140463
10.1016/j.bbapap.2020.140463