配偶者を選ぶ際に近親交配を避ける例は知られるが、多くの場合その仕組みは解明されていない。雌雄が異なる距離を分散することで、近親者同士の出会いが妨げられているという仮説があるが、これとは逆に、近親者を避けながら分散経路を選択することで雌雄が異なる距離を分散しているという仮説も可能である。 本研究の目的は分散距離の性差と近親交配回避の因果関係を明らかにすることである。この目的達成のために、沖縄県南大東島の亜種ダイトウコノハズクの個体群を対象に、分散行動と血縁関係の関係性を調べた。本個体群では分散距離性差と近親交配回避の両方の存在がすでに示されている。 2019年に、ヒナ26羽にGPSデータロガーを装着した。ロガーは1年間、1日1回測位するように設定した。2020年にはそれらのロガーの回収を行った。雌雄各3個体で合計6個体からの回収に成功し、詳細な分散経路のデータが得られた。この調査と並行して、2019年の2月から7月にかけて夜間に島内を踏査することで、島内の全個体の縄張りの位置情報を地図上に記録した。可能なかぎり多くの個体を捕獲および採血した。調査終了後、血液サンプルからDNAを抽出した。このDNAサンプルをもとにマイクロサテライト遺伝子型を決定し、個体間の血縁度を推定した。 以上の分散経路と血縁関係のデータをもとに、分散進路選択に個体間の血縁度が関与しているかどうかを階層ベイズモデルで検証した。その結果、分散進路の選択に対する血縁関係の寄与は指示されなかったため、雌雄が異なる距離を分散することで、近親者同士の出会いが妨げられているという仮説が支持された。しかし予備調査で得られた分散経路データの解析では、逆の結果が得られていた。分散パターンの年による違いの存在が示唆される。縄張りの空き状況や分散開始時期の違いなど、分散に影響すると思われる他の効果も考慮に入れた上で再検討が必要である。
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