研究課題/領域番号 |
19J12870
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
You Daehyun 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 電子緩和 / 自由電子レーザー / コヒーレント制御 / 光電子分光 |
研究実績の概要 |
紫外線やX線のようなエネルギーの高い光で不安定になった化学種では、電子を出して安定な状態へ緩和するオージェ緩和過程が起こる。単一光子レーザー誘起オージェ緩和(spLEAD)過程は、オージェ緩和過程がエネルギー的に禁制である化学種においてもレーザーからさらにエネルギーを得て起きるオージェ緩和過程である。spLEAD過程は内側の価電子に特徴的な電子相関により引き起こされる現象であるため、この過程を経て放出された電子から、アト秒スケールで起きる内側の価電子ダイナミクスの詳しい情報を得ることができると予想されている。本研究では、ネオン(Ne)原子を標的にspLEAD過程を経て放出された光電子の観測、かつ、コヒーレント制御を目的に実験を実行した。 イタリアの自由電子レーザー(FEL)施設FERMIで利用可能になった位相を制御した二色(基本波と倍波)の極紫外(EUV)コヒーレント光を標的に照射した。内側の価電子を外側の価電子の正孔に遷移させるように基本波の波長を選択した。放出された電子を速度マップ画像(VMI)型電子分光器を用いて観測した。電子分光器から得られたVMI画像を解析して電子のエネルギー分布や角度分布を取得した。光電子運動エネルギーの値からイオン化過程を特定することができた。二色光の相対位相の変化とともに角度分布が変化することを捉えた。これは、(1) 一つの正ホールを持つ中間状態を経由してspLEAD過程によりイオン化する過程と (2) 倍波による直接イオン化する過程 の異なる二つのイオン化過程により放出される電子が干渉しあっていることを意味する。したがって、spLEAD過程の観測、かつ、二色光の相対位相によるコヒーレント制御に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
受入研究室はイタリアのFEL施設FERMIを利用し、ネオン原子を標的にした光イオン化のコヒーレント制御実験を行っていた。その先行研究でspLEAD過程を初めて観測に成功した。しかし、その先行研究はspLEAD過程を実証しただけで、定量的な評価はできていなかった。本研究では、ネオン原子においてspLEAD過程を観測するための実験条件をよく検討して、(1) 基本波のみ (2) 倍波のみ (3) 弱い基本波と強い倍波 (4) 強い基本波と弱い倍波 の四つの異なるFEL光の強度条件で実験を行った。条件 (3) は先行研究の実験条件と似た基本波と倍波の強度比にしている。条件 (4) はspLEAD過程との干渉による角度分布の変化がより激しくなると予想する強度比である。 先行研究では、spLEAD過程による干渉効果を測定することでspLEADを初めて実証した。spLEADを直接観測したわけではない。条件 (1) の実験では基本波のみをネオン原子に照射してspLEAD過程を直接観測することに成功した。 先行研究で振動してないと結論付けたある干渉過程が、条件 (3) の実験で本当は振動していたことを判明した。今回の実験で測定誤差を抑えることができたことにより定量的な議論ができて得られた成果である。 条件 (4)、強い基本波と弱い倍波の強度条件でspLEAD過程との干渉による角度分布の変化がより激しくなると予想していた。実験結果、該当の条件ではある異なる干渉過程が増幅して、角度分の振動を取り消しあることが分かった。 我々は、あるモデルを構築し、ADC法に基づいた計算結果に適用した。そこから得られた計算値は測定値とよく一致した。より、ネオン原子におけるspLEAD過程の解明とspLEADによる光電子角度分布の定量的議論ができた。
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今後の研究の推進方策 |
spLEADは内側の価電子との電子相関により起こるために、アト秒スケールで起こる内側の価電子ダイナミクスを理解する上で重要な現象である。分子系における内側の価電子ダイナミクスは興味深いものである。本手法は分子にも適用可能である。今後は希ガス原子から小さい分子へ本手法を拡張する。一光子・二光子イオン化過程がよく知られている二酸化炭素(CO2)分子を最初の標的試料とし、次に反転中心を持たない亜酸化窒素(N2O)分子を標的試料とする。反転中心を持たない亜酸化窒素のような分子系では、二色FEL光のコヒーレント制御によりspLEAD過程の反応全断面積も制御ができると考え、これを検証する。さらに生体や環境で最も重要な水(H2O)分子も試みる。 本年次計画では、申請者が理論計算プログラムを開発して計算を実行することを予定していたが、実験データの解析で立て込んでいたために共同研究者に任していた。二年目からは、受入研究室が理論計算に強い研究室に変われるので、新しい教授の指導の下に申請者が分子におけるspLEAD過程の理論計算プログラムを開発して計算を実行することを推進する。既存に利用していた理論計算プログラムは原子系を前提に書かれていたので、分子系に合わせてプログラムを直す必要がある。今回の実験結果の考察で明らかにした、互いに消し合う二つの干渉過程も計算に正しく反映されるようにする。理論計算の結果と以前の実験経験を踏まえて後期の実験計画を詳細に検討する。
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