2020年7月、クランプ星と呼ばれる種類の恒星の表面リチウム存在量が、従来の理論予言より40倍もの大きい値を示すことが、観測的に明らかになった。この発見を受けた報告者は、この現象を理論的に解き明かすことが喫緊の課題であると考え、研究実施計画を一部変更し、恒星進化理論を用いてクランプ星のリチウム存在量を研究した。その結果、もしニュートリノが磁気モーメントと呼ばれる未知の性質を持つ場合、恒星内部の熱塩混合の効率が向上し、星の内部で生成された7Beが星の外層に効率よく輸送されることが明らかになった。外層に輸送された7Beはやがて7Liに崩壊するため、小質量星がヘリウム・フラッシュと呼ばれる現象を起こす直前、表面のリチウム量がこれまでのモデルに比べて増大することを発見した。この結果をまとめた論文は英国王立天文学会の学術誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyより出版された。 また、近年の原子核理論の発展により、電子捕獲反応に対するプラズマ中での電子遮蔽効果の影響が計算された。そこで報告者は、原子核物理の専門家と協力し、電子遮蔽効果を考慮した電子捕獲反応率を用いてIa型超新星における元素合成計算を行った。その結果、54Crなどの原子核の生成量が従来の計算に比べて数十%小さくなることを明らかにした。この結果をまとめた論文は、米国天文学会の学術誌The Astrophysical Journalより出版済みである。
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