研究実績の概要 |
本年度は,Cu2Ti4S8をベースにしたスピネルの熱電性能向上を目的として,格子熱伝導率を低減させるための1) SのSe置換による点欠陥の導入,および電気的特性を向上させるための2) Cuサイト欠損による電子キャリア濃度nの低減と3) TiのTr = Co, Sc置換を実施した。以下に各テーマの実績の概要を記す。 1) Cu2Ti4S8のTiをCoで置換したCu2CoTi3S8に対して,SをSeで25%程度置換できることを確認した。しかしながら,試料中でのSeとCoの組成のばらつきが大きかった。ここで,SeとCoの組成には正の相関があった。結果として,Se置換による格子熱伝導率低減の兆候が確認されたものの,出力因子の低下と電子熱伝導率の増加によりZTは低下した。 2) Cu2Ti4S8では,電子キャリアの供給源であるCuを欠損させればnを低減できる。本研究では,TiをFeで置換したCu2FeTi3S8においても,Cuを25%欠損させられることを確認した。Cu欠損試料は熱的に不安定であったが,硫黄蒸気中で加熱することで,分解を防ぎながら焼結できた。結果として,Cuの欠損によりnは低下し,ゼーベック係数は増大した。 3) TiをCoとScで置換したCu2(Co/Sc)yTi4-yS8 (1 ≦ y ≦ 2)を合成した。両方の置換系でyの増大に伴いゼーベック係数と電気抵抗率は増大した。これは期待通りnが低減したことを示す。結果として,673 KにおけるZTはCo置換系では0.2, Sc置換系では0.1と無置換系よりも大きかった。ここで,Co置換系のZTがSc置換系に比べて大きいのは,ゼーベック係数が大きいためであった。この結果はCo置換が性能向上に有効であることを示唆する。
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