研究課題/領域番号 |
19J12936
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
園元 英祐 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン / オシロン / ノントポロジカルソリトン |
研究実績の概要 |
本年は、スカラー暗黒物質が「オシロン」という塊で宇宙初期に存在した場合、現在の宇宙まで生き残ることが可能かを確かめることに焦点を当て研究を行った。その結果、以下の二つの成果を主に得ることができた。 一つ目は、オシロンの寿命を理論的に求める手法を世界で初めて確立したことである。これまで、オシロンの寿命を正確に求めるには数値計算を行うしかなかったため、非常に時間がかかった。しかし、本手法によりオシロンの古典的な崩壊率を求めることができるようになったため、モデルに応じたオシロンの寿命を、数値計算をすることなく簡単に計算することが可能になった。本研究は Journal of High Energy Physics に掲載されている。 二つ目は、一つ目の成果を用いて、Ultra-light Axion-like Particle(ULAP)と呼ばれる粒子がオシロンを形成し、現在の宇宙まで生き残っている可能性があることを示したことである。一般に、アクシオンでよく用いられる cos 型のポテンシャルではオシロンはすぐ崩壊してしまうが、超弦理論からその存在が示唆されている ULAP では、そのポテンシャルが cos 型とは異なることから、より長寿命なオシロンが形成され得る。このことを用いて、実際に ULAP で長寿命のオシロンが生成されることをシミュレーションにより示した。本研究は、Journal of Cosmology and Astroparticle Physics に掲載されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究が、当初の計画以上に進展していると考える理由は、以下の二つである。一つ目は、本研究における三つの大きな問題のうち二つを解決することができたからである。本研究には、 ・スカラー暗黒物質において、オシロンがそもそも生成されるのか ・オシロンが生成されたとして、現在の宇宙まで生き残るのか ・生成されたオシロンが生き残ったとして、何か観測可能なシグナルを発するのか の三つの問題が存在した。本年では、上記「研究実績の概要」で述べたように、これらの問題について現在の宇宙まで生き残っている可能性のあるスカラー暗黒物質の模型の存在を示すことができた。これは、上記三つの問題のうち二つを解決できたことを意味するため、本研究全体における大きな前進であると考えられる。 二つ目は、本研究の主たる目的に加え、関連した研究二つを論文としてまとめ、上梓することができたからである。良い研究を行うためには、一見すると研究目的と関係しないような研究にも精力的に取り組むことで、深く事象を理解することが欠かせないと考えている。そのため、本研究目的以外にも達成した本年の様々な研究成果は、次年度以降の研究の質をさらに向上させる礎になると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により、スカラー暗黒物質のオシロンの寿命を理論的に求めることが可能になった。これにより、オシロンとして現在の宇宙まで生き残っているスカラー暗黒物質の模型を同定することが可能になったため、本年度では、長寿命なオシロンが観測に与える影響を、それらの模型に応じて三つ考える。 一つ目は、ULAP に最も厳しい制限を与えている Lyman-alpha forest の制限が、オシロンが存在した場合にとうなるかである。ULAP が存在した場合、粒子の波動性により小スケールの構造が抑制されることから Lyman-alpha の吸収線が一般に減ることが考えられる。しかし、この減り方は、Lyman-alpha のスケールとは異なる大きさのオシロンが多く存在した場合には弱まることが想定されるため、現在の ULAP の制限を逃れることができる可能性を持っている。 二つ目は、21cm線と呼ばれる吸収線による観測可能性について考える。21cm線の典型的なスケールは、ULAP のオシロンの大きさと同程度のため、その吸収線は通常の冷たい暗黒物質として想定されるものから大きく変化すると考えられる。そこで、オシロンが存在した場合の21cm線の吸収線を計算し、将来的な21cm線の観測から暗黒物質オシロンが観測可能かを考える。 最後に、アクシオンや UALP がオシロンとして現在の宇宙まで生き残っていた場合に、重力が光をねじ曲げる重力レンズ効果によってそれらが観測可能かを理論的に計算する。
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