研究課題/領域番号 |
19J12955
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日比 敬太 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | tRNA / 修飾塩基 / 無細胞蛋白質合成系 |
研究実績の概要 |
tRNAはさまざまな修飾塩基を持ち、それらの手助けを受けてその機能を効率的に果たしている。本研究では、修飾塩基を一切持たない試験管内転写tRNAによるタンパク質合成系を基に、特定のtRNAに単一の修飾塩基を導入し、その機能動態を解析することでこれまで明らかでなかった修飾の機能を明らかにすることを目指している。 昨年度は、mnm5s2Uという修飾塩基の導入条件検討とその中間体であるmnm5UをGlu-tRNA(UUC)上に再構成し、その機能を解析した。導入条件検討ではmnm5s2Uの中間体であるmnm5Uとs2Uの導入効率検討を行った。mnm5Uは3つの直接反応に関わる酵素群と基質である5,10-CH2-THFを供給する酵素を組み合わせることで、およそ70%の導入効率を達成した。また、s2Uでは本来予定していたIscS、MnmAのみでは修飾導入がほとんど起こらなかったため、Sulfur-relay systemを構成する5つの酵素群を追加で精製し生体と同じ導入系を構築したところ、25%の導入効率が達成できた。また、mnm5Uを導入したGlu-tRNA(UUC)の解析では、アミノアシレーション速度が修飾を一切持たないものに比べおよそ3倍になった。また、モデルタンパク質であるDHFRを合成させたところ、mnm5Uを導入するだけで合成量が2倍になった。この結果から、単一の修飾塩基を一つのtRNAに導入するだけで試験管内転写tRNAのタンパク質合成効率を大きく向上できることが分かった。また、他の修飾塩基を一種類のtRNAにさらに導入した場合、7倍程度のタンパク質合成効率向上が見られた。このことから、試験管内転写tRNAの応用における隘路となっている合成効率の低さは比較的少ない修飾塩基を導入することで克服可能だと示唆され、応用がぐっと近づいたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、mnm5Uの導入を試験管内で高効率に行える系の構築に成功した。特に、不安定な基質を酵素によってde novoに合成することで導入効率を向上させられたことは、今後の修飾塩基導入において重要な知見となると考えられる。また、予定よりも複雑な合計7種類の酵素が介在する系となったが、s2Uの導入にも成功した。さらに、mnm5s2Uの中間体であるmnm5Uがアミノアシレーション効率を向上させることが分かり、タンパク質合成効率にも寄与することが示された。したがって、おおむね順調に研究は進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はGlu-tRNA(UUC)のデコーディング効率解析などを行い、タンパク質合成効率向上がアミノアシレーション効率の向上由来かコドン解読能向上由来かを調べることで、mnm5Uのタンパク質合成過程における機能をより詳細に理解できると期待される。次年度はmRNAスタートによる実験やアミノアシレーションを系外で行う実験を予定しており、mnm5Uやmnm5s2Uのデコーディングにおける役割解明を期待したい。また、すでに確立しているt6Aの導入とあわせてアンチコドンループの修飾塩基がコドン認識の正確性、効率に与える影響を詳細に解析していく。
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