研究課題/領域番号 |
19J12975
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂根 恭平 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | カルシウムシグナル伝達 / FOR20 / S100A6 |
研究実績の概要 |
細胞内カルシウムシグナル伝達は、細胞外からの刺激に応じて細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が引き起こされ、その後様々な分子間相互作用や翻訳後修飾を通して筋収縮、分泌反応、遺伝子発現、高次中枢神経機能など多くの生体反応を調節している。なかでもカルモデュリン(CaM)に代表されるEF-hand型Ca2+受容体タンパク質はカルシウムセンサーとして細胞内カルシウムイオン濃度の変化を感受し、分子間相互作用を介した標的分子の機能制御を行うことで、生体のカルシウム応答を調節している。CaMのカルシウムシグナル伝達における機能的多様性はリン酸化酵素を含む多くの標的酵素分子、受容体分子、細胞骨格分子を標的として、機能調節を行うことにより獲得されている。 Ca2+受容体タンパク質であるS100分子群は、24種類のサブファミリーを持ち、組織特異的に発現している。このことから、それぞれ固有のカルシウムシグナル伝達機構を担っていると考えられるが、その機能的特異性や重複性の分子機構には不明な点が多い。また、正常組織と腫瘍組織ではS100分子群の発現レベルが異なることから、悪性腫瘍のマーカーとしても利用されており、細胞の腫瘍化や転移に関与する可能性が考えられている。当研究では"Protein Array"を用いたゲノムワイド相互作用分子スクリーニングによって、新規S100A6標的分子として中心体タンパク質であるFOR20を同定することに成功しているが、新規標的分子として同定したFOR20の生理機能はいまだ不明である。そのためCa2+/S100A6/FOR20相互作用について、調節分子であるS100A6によって調節されるFOR20の標的分子の探索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
S100A6相互作用領域を持つFOR20のN-末端領域は、二量体の形成に必要なLis-H領域や、複数の中心体関連タンパク質で保存されているTOFモチーフ(Tonneau(陸生植物でのFOPの相同分子)、OFD1、FOP)と呼ばれる領域を含んでおり、FOR20の中心体での機能において非常に重要な配列であると考えられる。また、FOR20のN-末端領域の欠損は、FOR20の中心体への局在を阻害することが報告されている(Sedjaï et al. J Cell Sci. 2010)。このことから、蛍光タンパク質融合タンパク質発現ベクターを作成し、細胞導入することによって、細胞刺激によるCa2+濃度上昇によるFOR20の局在変化とS100A6分子との共局在について調査を進めている。 FOR20は中心体に局在することが知られており、試験管内の実験においてtubulinと相互作用し微小管の形成を阻害することが報告された(Srivastava et al. Biochem J. 2017)。中心体は微小管形成中心として機能しており、核となる構造体である中心小体がその周りにタンパク質群をリクルートすることで、形成される。中心体は、微小管の重合を調節して細胞骨格として重要な微小管ネットワークを構築することで、細胞形態や移動、細胞内輸送、細胞分裂において大事な役割を果たしている。また、細胞分裂中のカルシウムイオン濃度の低下が染色体の整列異常を引き起こすことが報告されており(Phengchat et al. Sci Rep. 2017)、カルシウムシグナルが中心体の制御に重要であると考えられる。このことから、FOR20の微小管形成阻害に対するCa2+/S100A6による調節についてtubulinによる微小管重合時にFOR20とS100A6を加え、Ca2+による微小管形成の影響を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
FOR20ノックアウトマウスの作成と個体解析を行う。FOR20ノックアウトにおけるシリオパシーの病理学的解析と中心体形成異常の観察を行う。遺伝子導入法により培養細胞(HeLa細胞、COS-7細胞)にGST-FOR20を一過性に発現させ、GST-Pulldown法によりCa2+/S100A6依存的に制御される相互作用分子の探索を行う。溶出されたタンパク質は銀染色の後、LC-MS/MSにより分子同定を行う。また、GST-FOR20を培養細胞内で一過性発現させ、FOR20/tubulinの相互作用にCa2+依存的な調節機構が存在するかを明らかにする。特にGST-FOR20とS100A6を含む系でtubulinの重合実験をCa2+存在下、非存在下において行うことにより、FOR20の微小管形成阻害に対するCa2+/S100A6による調節機構の有無を明らかにする。
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