研究課題/領域番号 |
19J13009
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長谷川 友美 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 変異体 / 冷害 / 乾燥 / アフリカ米安定生産 |
研究実績の概要 |
ケニアを含む東アフリカの高原地帯の稲作では、気温の年次変動が激しく、深刻な冷温となる年には耐冷性系統でさえも冷害により収量が激減する。 本研究では、特に低温に弱い出穂期に焦点を当て、水管理技術により出穂時期を遅らせることで冷害を回避する栽培技術および材料の開発を目指す。その際、水管理により生じる乾燥ストレスに耐性を示す変異体の原因遺伝子を合わせて利用することで、水管理条件下での収量維持も試みる。 そのため、本研究ではTC01変異体由来の出穂遅延能力とKM07変異体由来の地上部乾物生産の維持能力をそれぞれ導入したアフリカの有望品種および湛水状態と乾燥状態を繰り返す間断灌漑法を活用し、これらの冷害回避における有用性および作用機作を明らかにすることを目的とする。 昨年度、ケニア農畜産業研究機関(KALRO)ムエア支所・キロゴ圃場における2度の栽培試験を実施し、ケニアの間断灌漑圃場におけるTC01変異体由来の出穂遅延能力とKM07変異体由来の地上部乾物生産の維持能力が最大限発揮される水環境および系統の特定が完了し、今後土壌水分変動と出穂遅延・地上部生育維持能力の関係性解明を進めていけると考える。また、予定されていた学内でのポット試験を実施し、TC01変異体における出穂遅延の原因の解明およびKM07変異体における糖代謝を中心とした生育バランスの制御機構の解明に向け解析を進める予定である。さらに、ケニアの有望品種の中からも比較的緩やかな間断灌漑により出穂が遅延する系統が見出されたため、これらの系統も含め大学内およびケニアの間断灌漑圃場にて出穂遅延が誘導される系統の評価・選抜を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、昨年度予定されていた栽培試験を学内およびケニアの間断灌漑下で実施し、湛水と乾燥を繰り返すシビアな土壌水分変動よりも湛水期間を10日ほど維持する緩やかな土壌水分変動環境下において地上部生育および収量を維持することが明らかとなった。これまで、乾燥強度を変化させる水管理が多かった一方、本研究では一定の湛水期間を乾燥期間の間に確保することで地上部生育および収量維持を達成することができた。今後、ケニア現地の冷温期にこの間断灌漑条件下で評価することで冷害回避における出穂遅延能力と地上部乾物生産の維持能力の有用性が明らかになると期待される。 また、TC01変異遺伝子およびKM07変異遺伝子が間断灌漑栽培下で生育に与える影響を解析し、それぞれ有用系統の選抜が完了した。TC01変異遺伝子に関しては、ケニア間断灌漑圃場において間断灌漑処理により湛水区に比べ出穂を長く遅らせる系統が複数見つかり、その中でも間断灌漑によるストレスが少なく地上部生育を維持できる系統および水環境を特定することができた。一方、KM07変異遺伝子に関しては、湛水区に比べ間断灌漑区において高い地上部生育および収量を示すことが明らかとなり、その能力を最大限発揮させる系統および水環境を特定することができた。これら、系統と水環境の特定が完了したことで、今後土壌水分変動と出穂遅延・地上部生育維持能力の関係性解明を進めていけると考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の2度のケニア圃場での栽培試験において上述の結果が得られたため、今後は選抜した水環境および系統をケニアの冷温期に評価することで、出穂遅延による冷害回避能力と地上部生育維持能力の組み合わせの有用性を評価する予定である。また、TC01変異体由来の出穂遅延能力に関して、間断灌漑下において高い出穂遅延能力を示した選抜系統を用いて、葉の展開速度などの生育特性および出穂・開花に関わる遺伝子群の経時的な発現パターンの解析を進めていく予定である。さらに、KM07変異体由来の地上部乾物生産の維持能力に関して、今後は糖含量の測定および安定同位体炭素の追跡を進めることで、間断灌漑下における地上部・収量維持に関わる生育バランスの制御機構を明らかにしていきたいと考える。
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