研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属触媒において重要な二座型配位子である2,2'-ビピリジンの新たな設計に基づき、銅触媒によるα-アミノベンジルボロン酸エステルの鈴木-宮浦型不斉分子内カップリングを開拓した。ホウ素上に三置換不斉炭素を有する高光学純度の基質においては、無置換2,2'-ビピリジンを配位子として用いると完全なラセミ化を伴って反応が進行するのに対し、6位にフェニル基を導入したC1対称型2,2'-ビピリジンを用いることでエナンチオ特異的に反応が進行した。本反応は不斉炭素中心の立体反転を伴って進行し、高光学純度のイソインドリノンが高収率で得られた。エナンチオ特異性は最高96%に達した。 また、この分子内カップリング反応にキラルビピリジン配位子を適用することで、ラセミ体のα-アミノベンジルボロン酸エステルを高光学純度のイソインドリノンへと変換するエナンチオ収束的反応を実現した。キラル側鎖により一方向巻きらせん不斉が誘起されたポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の側鎖にアキラルなビピリジン部位を導入したキラルらせん高分子配位子PQXbpyを用いることで、最高94:6 の鏡像異性体比で生成物が得られた。市販のN,N-二座型キラル低分子配位子では低収率や低選択性にとどまったことから、PQXbpyの優位性が示された。また、PQXbpyの溶媒依存性らせん不斉制御を利用することで、生成物の鏡像異性体の高選択的作り分けに成功した。これらの結果は、高分子主鎖のキラルらせん構造がビピリジン-銅触媒の優れた不斉反応場として作用していることを意味しており、キラルらせん高分子触媒の分子設計に基づいた不斉分子変換反応開拓のさらなる可能性を示している。
|