研究課題/領域番号 |
19J13194
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関根 北斗 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 無電極イオン加速 |
研究実績の概要 |
本研究では,無電極型プラズマ推進機におけるプラズマ加速過程の理解と,その知見応用による推進機性能の向上を目的としている. 将来的な宇宙探査ミッションに向け,大電力(数kW-数MW級)で作動する宇宙機用プラズマ推進機の実現が望まれている.従来型プラズマ推進機内では,高エネルギー粒子の集団であるプラズマが金属電極に直接接触していることから,特に大電力レンジでは電極損耗が課題となる.その解決策として,無電極型プラズマ推進機の高性能化/実用化が提案されている. プラズマ推進機の推力は,プラズマ中のイオンを加速することで,その反力として生み出される.イオンは主に電場によって加速されるが,電極を持たない無電極型推進機においては,プラズマ中に推力方向の電場を直接印加することは従来型に比べると容易ではない. そこで,無電極型推進機でのプラズマ加速は,比較的印加の容易な磁場を利用する.無電極型プラズマ推進機の高性能化のためには,推進機内でのプラズマと磁場との相互作用,およびその結果としてのイオン加速過程の詳細を理解することが必要である.このプラズマと磁場との相互作用は,多様なスケールの物理が複雑に連関した結果であり,宇宙プラズマ,核融合プラズマなどの分野においても未解明な点の多い,興味深いトピックでもある. 本年度は,詳細/高精度なプラズマ診断によって,外部から変動磁場が印加された場合のプラズマ中の電子/イオンのダイナミクス,およびそのカップリングを実験的に調査した.その結果,イオンのスケール長と電子のスケール長の違いに起因して電場が形成され,これがイオン加速に重要な役割を果たしていることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,プラズマ加速中のプラズマ診断に重点を置いて実験的研究を実施した.特に本研究が対象とする推進機の内部では,磁場は二次元的(軸方向/径方向)に分布しており,また時間的にも変動する.そのため,プラズマ加速の詳細を理解するためには,磁場の時空間的変化がどのようにプラズマに作用し,イオン加速が生じるのかを明らかにする必要がある.しかしながら,推進機内での二次元的イオン加速の詳細はほとんど明らかになっていない.まずプラズマ加速中のプラズマ密度および電場の測定を行うため,高周波補償ラングミュアプローブを構築した.無電極型のプラズマ推進機では高周波プラズマと呼ばれるプラズマを扱う.ノイズの大きな環境となり,プラズマ測定は困難になる傾向がある.測定系の試行錯誤の結果,これらの課題をクリアし,プラズマ加速中のプラズマ密度および電場の時空間発展を取得することに成功した.さらに,マッハプローブと呼ばれる二端子型のプローブと,それに伴う測定系を合わせて構築し,プラズマ流速の時空間発展の取得にも成功した.その結果,静磁場に加えて変動磁場をプラズマに印加したとき,強い磁場垂直方向への電場が生じることがわかった.取得したプラズマの各種パラメータを用いて,電子/イオンの二流体方程式を用いて解析を行ったところ,電子/イオンのダイナミクスのスケール長が異なることによるホール電場が生じ,これがイオンを磁場垂直方向へと加速することがわかった. さらにこの磁場垂直方向へのイオン加速の結果として,大きな密度勾配の変化が生じることがわかり,これが両極性電場を介して磁力線平行方向へとイオンを加速していることがわかった.推進機としてみると磁力線平行方向へのイオン加速が重要である.本年度の研究結果は,これが引き起こされるメカニズムの解明に大きく貢献したと言え,性能向上への重要な指針を得たと評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,電子と変動磁場の相互作用について,より詳細な実験が必要と考えている.ホール電場形成は,変動磁場印加が駆動する電子電流にかかるローレンツ力と,ホール電場による静電力が釣り合うように形成されていることが示唆された.しかし申請者による電流測定結果によると,従来考えられていたような過程では測定値を満足に説明することが出来ないことがわかっている.すなわち現時点では,電流駆動メカニズムを明らかにすることが,ホール電場形成の理解につながり,ひいては効率的なイオン加速への重要な指針を得ることにつながる,と考えている.
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