研究課題/領域番号 |
19J13256
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内田 貴久 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 対話ロボット / 選好モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ロボットと対話する人間の意見をモデル化することによって獲得し,そのモデルに基づいて対話を行うシステムの構築である.本年度では,効率的に対話相手の意見をモデル化する手法を提案した.提案手法では,計算論的に意見をモデル化することを可能にするために,表形式の行列で対話相手の様々なアイテムに関する選好と類似性を表現した.次に,これまでの対話でデータが更新されるたびに,それらをもとに未知データを補完するためのルールを整備した.データ取得に関しては対話における煩雑なデータ収集を避けるために,少ないデータで効率的にモデル化するためのデータ取得戦略を提案した.ここでは,表においてどのデータを取得することができれば,補完ルールをより多く適用できるのかについての期待値を定義し,取得すべきデータについて評価できるようにした.そして,この枠組みにおいて発話生成を行うためのルールを整理し,提案手法を備えた対話システムを構築した.対話ロボットへ実装したシステムの評価実験を行った結果,提案手法の効率性とロボットが対話相手を理解しようとしている態度をより表現することができる傾向が示され,対話の満足度を向上させる結果が得られた.また,対話ロボットとの長期的なコミュニケーションを実現するために必要な要素についても示唆が得られた.この研究成果については,ヒューマンロボットインタラクション系論文誌へ投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対話において少ないデータで個々の選好(好き嫌い)について理解(モデル化)するために,事前に複数人の選好に関するモデルを表の形式で保持しておき,対話相手がどのモデルに近いのかを評価する指標(ARI)を用いて事前モデルとの類似度を計算し,最も類似度の高いものを相手モデルとして採用した.事前学習にはクラウドクラスタリングと無限関係モデルの手法を採用した.この機能を備えた対話システムを構築したところ,大まかな推定を可能にしている点は評価できるが,より詳細な部分についての推定には不十分であるという主観を持った. そこで,個々の選好に関してより詳細にモデル化するために,選好と類似性に関する行列を用いたデータ構造を採用した.また,人間の発話に基づいてその行列を補完(推定)するようなルールを作成した.補完の際にはロボット自身の選好や類似性に関するデータをもとに行うように設計した.そして,人間の選好や類似性に関するデータについて,どの情報を得ることができれば,より補完を行うことができるのかを示す期待値を定義した.これにより,表において効率的に推定を行うことができ,この手法が対話として有効な発話生成を導くのかについて,評価する実験を行った.被験者16名に対して見かけが人間に酷似したロボットであるアンドロイドEICAを用いて,10ターンの推定に関する言及を行う対話を行った結果,補完に関するルールは6割強の精度で推定を行うことができ,効率的に推定を行うための手法はアンドロイド理解しようとする態度をより感じさせる傾向にあり,対話満足度を向上させる結果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
対話において個々の選好に関してモデル化する手法をより発展させるために,得られた選好モデルを他の人と結び付けて推定の精度と効率性を向上させることを計画している.補完の際に使用するモデルを,対話相手が近いと評価される複数人のモデルに置き換えることによって,より柔軟な推定を行うことが可能になると考えられる.複数人のモデルを用いたモデル化の実装は,実験に使用したシステムの前に作成したものと同じ機能を使用するため,スムーズにシステム開発を行うことができると考えられる. また,複数人の選好モデルを持つことで,人間同士の相互理解を深める対話生成にも応用することが考えられる.選好モデルが近い人に関して情報提供を行うことで,人間同士のコミュニケーション促進に寄与する可能性がある.そして,選好モデルの近さによって階層化することで,人間関係のモデルにまで発展させることが可能になる.その推定された人間関係モデルが本人同士の主観と相関するのかなどについて検証することが考えられる.
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